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駒野友一 「サイドに生きる男の誇り」
text by
槙野仁子Yoshiko Makino
posted2007/04/05 23:26
試合開始、数時間前。会場へ向かうバスが宿舎を後にする。まだ、誰にも先発メンバーは知らされていない。バスが会場に到着すると、選手たちの表情は途端に、きゅっと引き締まる。ロッカールームへ向かういくつもの足音。駒野友一は、この音を聞くたびに、鼓動の波が強くなるのを感じる。
「アピールは十分だっただろうか」
「自分を計るチャンスは訪れるのか」
わずかな時間に様々な思いが巡る中、反町康治日本代表コーチ(U-22日本代表監督兼務)が、オシム監督から告げられた「11人のリスト」を元に、選手一人ひとりに声をかけて回っている。いまや、オシム監督体制下では恒例の、試合当日に行われるロッカールームでの先発メンバー告知である。
「お前、スタートからだから。準備をしろ」
背後から反町コーチの声が聞こえると、「トン」と背中が静かに押された。こみ上げる喜びを即座にしまい込み、ニュートラルに収まっていた自身のギアをトップに入れる。
「オシム監督になってから試合メンバーは当日まで分からなくて、毎試合、この瞬間はどきどきする」と駒野は言う。
それは、ジーコ監督体制下の日本代表では味わうことのなかった緊張感だった。
駒野は2005年の東アジア選手権から「日本代表」に名を連ねるようになったが先発の機会はあまり得られなかった。ジーコは、海外でプレーする選手を中心にメンバーを固定してのチーム強化を信条としていた。合宿序盤の練習試合で「先発」のビブスを与えられたメンバーはそのまま試合で先発する。いくら合宿でアピールしても先発組が怪我をしない限り、覆ることはない。つまり、駒野は当時、右サイドを不動としていた加地亮の「控え」という位置付けでしかなかった。
だが、オシムが日本代表監督に就任して以来、'06年の日本代表戦では7試合中6試合、主に左サイドで先発出場した。日本代表における駒野の状況は変わりつつある。
オシムは就任以来、サイドの選手の必須要素として2つあげている。
「攻撃も守備も両方できる選手」
「日本のサッカーでは筋力や身長、1対1の勝負では不利が出る。相手よりもどれだけ多く走れるかで勝負しなければならない」
攻守ともに顔を出す豊富な運動量に相手の常に一歩先を行こうとするタフな精神力。サイドでの勝負は試合の勝敗に直結するだけにオシムがサイドの選手に求めるものは多い。