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ポルトガル熱狂「祭典の味わい」。 

text by

杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

PROFILE

posted2004/07/01 02:58

 6月16日。スペインが引き分け、ポルトガルが勝った。ホスト国が開幕戦でギリシャに敗れたおかげで、他国のファンの熱気ばかりが席巻していたユーロ2004に、これでようやく本格的な灯がともった。

 僕は、ポルトの「ベッサ」でグループAのギリシャ対スペインを観戦。そして、ポルトガル対ロシアを街中のバールでテレビ観戦した後、ホテルに戻り、いまこの原稿を書いているわけだが、外は蜂の巣を突っついたようなお祭り騒ぎに包まれている。ポルトガルカラーである赤と緑の狂喜乱舞は、延々朝方まで続きそうな気配だ。本来、机に向かっている場合ではまったくない。さっさと仕事を切り上げ、その異常な空間の中に紛れ込みたい気分である。

“国対国”。ユーロのコンセプトは、“街対街”のチャンピオンズリーグより一見分かりやすいが、その渦中に飛び込んでみると難解さは増す。

 ポルトの街にいて思い出すのは、チャンピオンズリーグ。少なくとも僕の体内は、ドイツ・ゲルゼンキルヘンで行われた決勝の余韻冷めやらずだ。ホテルに向かったタクシーの運転手は、ラテン人ならではの耳に優しい発音の英語でこういった。

「今日、ポルトガルがロシアに勝ったのはどうしてか分かるかい?ポルトの選手が5人先発したからだよ。彼らは、欧州チャンピオンのメンバーなんだぜ。スタメンで使うのは当然。でないと優勝なんか望めやしない。だから、今後のポルトガルには大いに期待できるよ」

 挙国一致で代表チームを応援しているかのように見えるが、ポルトガル人にもそれぞれの胸に一物があり、代表に何かとケチを付けたがる他国と同様の傾向がある。地元のクラブこそが全てというような、より狭い民族主義に近い感情と必死に折り合いを付けようとするその姿は、日本人にはとても新鮮に映る。

 そんなこんなを思いつつ、そして、僕はまだポルトガルを100%信用してるわけではないのだけれど……との反論を、ゆっくり胸にしまい込んでいると、運転手は勢いよくこう続けた。

「今年の終わり、ポルトが日本へ行くのを知ってるかい。17年ぶりにインターコンチネンタル杯(トヨタ杯)に出場するんだ。アンタは'87年の試合は見たのかい。凄かったね、あの時のスタンドの景色は。雪で真っ白だった。東京は寒いんだなー。こことはえらい違いだ」

(以下、Number605号へ)

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