野球クロスロードBACK NUMBER
打ち込まれた経験を生かせるか?
横浜復活のカギは正捕手にあり。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byHideki Sugiyama
posted2011/04/10 08:00
期待された昨季は、打率1割8分7厘という低い成績で終わった武山。OPSで見ても、2008年の.540から.572、.491と低迷し続けている
横浜の若手捕手陣は、打たれることを怖がっている!?
その理由の一端を、横浜に在籍していたときの工藤公康が話してくれたことがある。
「特に若いキャッチャーに言えることなんですけど、打たれると怖がるんですよ。だから、打たれまいと一朝一夕で覚えたデータに頼りがちになるんですけど、結局は打たれないと分からないことのほうが多いんですよ」
工藤をはじめ、ベテラン投手や捕手は「若手はデータに頼りすぎる」と口を揃える。横浜で例を挙げれば、昨年の6月5日の楽天戦での武山がまさにそれだった。
4対3とリードしていた9回、守護神の山口俊がルイーズに逆転2ランを許しチームは敗北。打たれたボールは、初球の外角低めのスライダーだった。
結果は本塁打だったが、武山のリードは間違ってはいなかった。外国人打者と初対戦の際、長打が出る確率が低いアウトローの変化球から入るのは妥当な攻め方だ。
だが、試合後の尾花高夫監督は、この局面でのリードにこそ言及しなかったが、ぼそりとこのように呟いていた。
「山口の状態は悪くなかった。力勝負のピッチャーだからそこで勝負するしかない」
指揮官の言葉を勝手に解釈すれば、「山口なら真っ直ぐでも抑えられただろう」ということになる。
教科書通りのリードは大事なのかもしれない。だが、時には自分の直感を信じる必要もある、ということだ。
昨季に打ち込まれた経験を生かせる選手が正捕手に就く。
このゲームをきっかけに、というわけではないが、武山は昨シーズン、チーム最多の95試合に出場したこともあり、尾花監督に少なからずリード面を評価されるようになってきた。
だからといって、武山が正捕手になったわけではない。
今年の春季キャンプから、「競争」と指揮官が強調するように、レギュラーは白紙である事実に変わりはない。
若手、中堅、ベテラン関係なく、すべて横一線。ならば、チーム防御率、捕手防御率と向き合い、昨シーズンに打ち込まれた経験を効果的に生かすことができた選手が、今シーズン、おそらく正捕手の座に就くことになる。