博多の人・王貞治BACK NUMBER
「監督、今日は何対何で勝つつもりなんです?」「なんで今?」ダイエー王貞治を驚かせた唐突な問い…「勝つシナリオは7割決めておく」意味とは?
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喜瀬雅則Masanori Kise
photograph byNaoya Sanuki
posted2026/08/06 11:06
投手コーチに就任した尾花は投手陣を整備しつつ、王にも投手運用について意識の改革をうながした
「監督が何対何で勝つつもりなのか。それによって、僕はブルペンにピッチャーを準備させる役目があるんで、1-0なのか、4-3なのか。それによって全然違います」
「そういうものなのか」
「そうです。だから、これは相手にあげていい1点なのか、防がなきゃいけない1点なのか。もう全然違ってきますから」
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守備位置も、バッテリーの攻め方も、試合展開に応じて刻々と変わっていく。そうした場面に応じたシチュエーションをあらかじめ想定し、抜かりなく継投のタイミングを図っていかなければ、決断の一瞬の遅れが、命取りになるのだ。
西口文也から2点取れますか?
「尾花、じゃあ、君は今日、何対何を想定しているんだ」
王の質問に、尾花は明確に返答した。
「1-0か2-1になるでしょう。監督、西口から2点取れますか?」
監督室に、しばしの沈黙が走った。
西武の開幕投手・西口文也(現西武1軍監督)は、当時プロ5年目。1997、98年と2年連続でパ・リーグ最多勝と最多奪三振のタイトルを獲得。しかも、尾花が調べ上げたデータによれば、1998年の西口は、対ダイエー戦の防御率が0点台。その数字から導き出される試合運びは、むしろ簡単なことかもしれない。何とかして奪い取った1点を守り切る。あるいは僅差の展開に持ち込んで逃げ切る。その試合展開でしか西口相手には勝てない。
王は、尾花の綿密なシミュレーションに、深く頷いた。
「分かった。それで行ってくれ」
開幕投手の西村龍次は、9回途中まで無失点で踏ん張った。しかし、打線が西口を打てないまま、0-0で迎えた9回裏途中、西村から吉田、山田とスイッチするもサヨナラ負け。しかし敗れたとはいえ、スコアは尾花が試合前に想定した通りの0-1だった。
勝利の方程式の巧みな運用
その後も、王との試合前に行う“継投想定会議”は「ずっとやったよ」と尾花。勝ちパターンに不可欠となった篠原の疲労を考慮して、王に「今日は、もう篠原はいません」とあらかじめ釘をさすこともあった。試合中に王が“予定変更”を尾花に告げても「試合前、話をしましたよ」。
あくまで、シーズンを通した展望の中で、尾花は「勝利の方程式」を巧みに繰り出していく。59試合登板の藤井、58試合登板の吉田、60試合登板の篠原と中継ぎ陣の登板数に“偏り”が見られないのは、尾花の巧みな手腕と頑固さの裏付けでもある。
〈つづく/近日公開予定、お楽しみに〉


