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ボクシングPRESSBACK NUMBER
井上尚弥は「『考える・動く』両方を持っている」“怪物と最も拳を交えた男”黒田雅之がタパレス戦で衝撃を受けた「パンチ以外の凄まじさ」
text by
森合正範Masanori Moriai
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2023/12/31 11:05
タパレスを10回KOで撃破した井上尚弥の凄さを、黒田雅之が解説
黒田が唸った井上の「冷静すぎるサイドステップ」
〈4回残り25秒。井上の左フックがタパレスのあごを捉えると、すぐに左へステップした。タパレスからすれば目の前にもう敵はいない。井上は相手の背中に回り込むようにして、左、右、左、右と連打でダウンを奪った。サウスポーの相手に対して、外のポジションをとるのは定石だ。だが、あの場面でそれができるのか、と聞かれるとそうとは言えない。〉
――セオリーと分かっていても、難しいことなんですね。
「世界王者になっていない僕が言うのもなんですが、大半のボクサーは『効いた!』と思ってまっすぐ前にいきます。僕もたぶん前にいっちゃうと思う。そうすると、真正面に向き合うことになるので(カウンターなどで被弾する)リスクもある。あそこで一拍おいて、サイドに動いたことで相手を別の角度からもよく見られるし、間と距離もとれる。ポジショニングとして、安全かつ、確実に仕留められるんです。ああ、あそこで冷静にサイドステップが出るのか……。それが僕の中ではすごいなあ、と思いましたね」
「『考える』と『動く』の両方を持っている」
――それでは、あの後のダウンはとるべくしてとった、ということですか。
「はい、そう思います。タパレスが背中を向けた状態になるので、もうお膳立ては済んでいます。僕も現役時代、いろいろ考えながらやっていたつもりだけど、考えれば考えるほど、考える前に動いた方がいい、先に体を動かした方がいい、となるんですけど、井上選手は『考える』と『動く』の両方を持っていますよね。フルトン戦ではまた違ったじゃないですか」
〈7月のスティーブン・フルトン戦。8回、左のボディジャブで腹を意識させておき、わずかにガードが下がった顔面へ右ストレートを放った。ぐらついた相手に対し、井上は間髪入れず動き、体全体で飛びかかるような左フックでフルトンを吹っ飛ばした。〉
――あれは考える前に動いていますよね。
「相手によって、引き出しを変えているんでしょうね。インタビューを見ても、タパレスのことを危険な相手だし、過大評価している、と言っていた。一発があるので、今回、井上選手はポジショニングを慎重に、すごく気をつけていたと思いますね」