「ワインドアップは大きく手足を動かすので、その日の調子によって、足の上がり方などに誤差が生じ、コントロールも狂う。腕の動きも大きければ大きいほど誤差が生じやすいので、なるべく小さな動作がいい。動作の自由度が少ないと、調子の良し悪しに関係なく、毎回正確に動かせる可能性が高いため、コンパクトなフォームにさせているんです。練習を毎日やれないチームのピッチャーは、これが一番ストライクが入る。たしかに大きなフォームの方が格好いいですが、それを自分のものにするには、何度も繰り返す必要があり、開成の練習量では無理です」

「お前は東大にいって、野球をやれ」

　このコンパクトなフォームで一皮むけた奥野だったが、高校2年生のときに腰の怪我をわずらい、3カ月投げられない日々が続く。本人が「怪我もあって思うように成長できなかった」と語るように、高校野球では悔いが残ったようだ。最後の夏の大会では、5回2/3を投げて被安打6。チームは7回裏に2点差を追いつかれ、9回裏にサヨナラ負けを喫した。初戦敗退である。

　それが東大を目指すモチベーションになった。

開成高時代の奥野

「高校時代は努力の結果が出ずに終わって悔しかったんです。まだうまくなれるという思いもありましたし、東京六大学でさらに挑戦を続けたいという気持ちが強くなりました。高校1年のときに監督やコーチに連れられて東大と早稲田の試合を観戦して、東大野球部への憧れを抱きましたが、高3での経験を踏まえてその気持ちがより強くなりましたね。先輩たちが負けたときにも、僕たちが負けたときにも、青木先生が怒りの説教テンションで『ここで満足するな。甘えるな。お前は東大にいって、野球をやれ』と言い続けていたのも大きかったと思います」

　一方、青木から奥野への評価は少々手厳しい。

「私は東京六大学野球の審判もやっていますが、いいピッチャーというのはストレートの質が違う。ピッチャーがボールを放した瞬間、打者も審判も、キャッチャーミットまでの軌跡を想像するわけです。この速さでこの位置を通過するなら、このくらいのタイミングでミットに収まるだろうというイメージが浮かぶものですが、いいピッチャーだとそれよりわずかに早くミットに来る。審判をやってると、『あっ！』と思わされる瞬間ですね。当然、打者もそうです」

　近年では、広島カープにドラフト1位指名された森下暢仁（明治大）がそうしたボールを投げていたと青木は言う。そして、奥野もかつて青木の目を驚かせたことがあった。

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