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「3年生の夢を壊してしまった」11連覇ならずの“あの日”…作新学院“センバツ8強”をいかに成し遂げたか? 超全員野球のウラ側
posted2023/03/30 11:02
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
KYODO
最後までもつれにもつれた大分商戦で、作新学院を指揮する小針崇宏は、ベンチ入りメンバー18人中17枚のカードを切った。
8回に逆転ホームランを許しながら、直後の9回の逆転弾で9-8の打撃戦を制した英明戦では、18人全員をグラウンドに送った。
そこには当然、高校野球では交代が少ない、「扇の要」と呼ばれるキャッチャーも含まれている。しかも、2試合続けてベンチ入りする3人全員が出場したとなれば事例は少ない。
「キャッチャーすら交代させる」理由
大胆な起用でチームを勝利へと導いた小針はしかし、平然と言う。
「キャッチャーの草野はキャプテンでありますし、そういう部分でも『ゲームを作ってくれれば』といった期待はあります。キャッチャーに限らず選手を交代する時というのは、試合展開によって自分が最善を尽くしながらも積極的な起用をする意味もあります」
文字通り総力戦でセンバツのベスト8を勝ちとったわけだが、この意味について取材で質問された小針は、今度は表情を引き締めながらチームを見渡すように話す。
「うちは戦力が高くはないので、控え選手も含めそんなに力の差がありません。ですので、ベンチ外のメンバーであったり、スタンドで応援してくださる人たちやチームのスタッフたちの想いをグラウンドで表現していくのがチームカラーということで戦っています」
他者への想い。
高校野球でそれは、感謝などを表す意味として常套句のように用いられることが多い。
今年の作新学院の「想い」は重要な意味を持つ。起因するのは、苦い記憶――。
「幻の11連覇」昨夏の記憶
昨年の夏。
作新学院は栃木大会準決勝で国学院栃木に敗れ、連覇が「10」で止まった。監督の小針としては、それまでの重圧や敗れたことで十字架が取り除かれたような感覚に陥ることはなかった。どちらかと言えば、「また一からのスタートでチームを作っていこう」と、闘争心の再生成に努めていたという。