インタビュー中、楠井は「勉強も野球もセンスがなかったから努力を続けられた。それが東大合格と甲子園出場を達成できた要因」だと何度も語った。その努力は現在の仕事にも生きている。

「東大野球部という目標をしっかり設定して、自分ができないことをひとつひとつ潰し、目標のためには興味のない勉強でも辛い練習でも必死に取り組む、これに尽きると思います。受験勉強の知識も野球の体力も残っていませんが、目標に向かって、やるべきことに優先順位をつけて効率的に取り組むという考え方は、同時多発的に発生する仕事を進める上で、とても生きていますね」

甲子園の実況ができるNHKアナウンサー

　一方、同じくセンバツ大会に出場し、二浪を経て東大野球部に入部した中村信博（高松・2012年卒）の進路を見ていこう。

　最終シーズンは未勝利に終わったが、リーグを終えた中村は大学野球をやりきった実感があったという。しかし、「甲子園で試合に出られなかったのが、野球人生の心残り」と話す中村は、高校野球に携わる進路を思い描いていた。そして、選んだのは甲子園の実況ができるNHKのアナウンサーだ。

高松高時代、中村がベンチ入りしたセンバツ。宇部商に2－6で敗れ、グラウンドで土を集める高松ナイン　©JIJI PRESS

「アナウンサーに興味を持ったきっかけは、就活が始まる前年の年末、地元に帰省した際に高校のチームメイトとかつて出場した甲子園の試合を見たことです。僕は試合に出ていないので、画面に映るのは整列と5回が終わった後にされるベンチ入りメンバーの紹介くらいですが、そこでアナウンサーが『背番号14番キャッチャー中村』と紹介してくれたのがすごく嬉しかった。甲子園にかかわって、こういう喜びを誰かに与えられるのは、いい仕事だなと思ったんです」

　また、幼い頃に聞いた母の一言もその思いを強くさせた。画面を通じて元気な姿を見せられるという意味合いで「NHKのアナウンサーは親孝行な仕事」と何気なくつぶやいた言葉を思い出し、「母の願いを叶えたい」とも考えたそうだ。

「挫折しまくりですよ」

　念願叶ってNHKに入局した中村は、現在、地元四国の松山放送局でアナウンサーを務め、甲子園の実況も経験した。

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