「普通、選抜テストならみんな受かりたいからバチバチやるじゃないですか。でも伊東は、どこかマイペースで自分がボールを持てばしっかりプレーするのですが、オフ・ザ・ボールの動きに緩慢さがありました。そこで僕がグラウンド脇に伊東を連れて行って『ちゃんとやらないと』と注意すると、神妙な面持ちで『すみません』と頭を下げるんです。生意気な子であれば、不貞腐れてもおかしくない場面だったかもしれませんが、そのときに彼の素直さを見た気がします」

　感受性が豊かで素直なぶん、もし伝統ある大学に進学していたら、伊東のよさは消えていたかもしれない。幸い神奈川大は県内出身の学生が多く、雰囲気もいわゆる体育会系のノリは薄かった。伊東の3つ上の先輩にあたる佐々木翔（現広島）も地元の公立校出身で、強豪校出身でないことがコンプレックスになることもなかった。

写真は神奈川大時代　©KUFC

「強豪校でもまれていなかったことで、組織的なプレーが身についていない部分は否めませんでした。それでも伊東のスピードとキックのパンチ力は抜群で、シュートはタイミングが合うとドンッと豪快に決めていたのは強く印象に残っています」

　大森はその年で一旦神奈川大を離れることになったが、伊東にとっては大学での4年間がサッカーキャリアの大きな転機になっていったのである。

＜#2、#3へ続く＞

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