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“登りを楽しむ”というピュアな能力。
日本人クライマーの計り知れない強さ。
posted2019/04/24 11:00
text by
津金壱郎Ichiro Tsugane
photograph by
Kiichi Matsumoto
勝ち負けよりも、どうやれば登れるかを知りたい。そんなクライマーの本懐が表れたシーンだった。
スポーツクライミングW杯シーズンが4月に開幕した。スイス・マイリンゲンでのW杯ボルダリング第1戦で口火を切り、翌週のモスクワ・ロシア大会ではW杯ボルダリング第2戦に加えてW杯スピード第1戦も行われた。
初戦のマイリンゲン大会の男子決勝には、日本勢から楢﨑智亜(2位)、杉本怜(3位)、藤井快(4位)、高田知尭(6位)が進んだものの、『最強ロッククライマー』の異名をとるアダム・オンドラ(チェコ)の前に敗れた。
優勝の行方をわけた最終課題は、岩の割れ目を模したホールドとホールドの間に入れた手や腕をつっかえ棒のようにして登る『ジャミング』という技術が求められた。これは岩場では珍しくないものだが、競技にはあまり出てこない。そして、ここに気づけたかが勝敗を決めた。
この課題を登れなかった5選手が見つめるなか、最終競技者のオンドラがあっさりと完登を決めると、彼のもとにファイナリストたちが歩み寄って勝利を称えた。すると次の瞬間、オンドラを中心にしたジャミング講座が始まる。オンドラが腕の形をつくり、それを日本選手たちも真似ていく。ステージ上の彼らの声は届かないが、その表情はなんとも楽しげな笑顔に満ちていた。
世界選手権に力を入れている楢﨑智亜。
2015年以来のW杯ボルダリングに出場したオンドラをはじめ、今季のW杯には例年よりも多くの国・地域から選手が出場している。マイリンゲン大会には昨年の30カ国・267選手を上回る38カ国・296選手が参戦し、2種目のW杯が併催されるモスクワ大会のエントリー数は39カ国・463人だ。
これほど多くの選手が参戦する理由は、今年8月に五輪出場権のかかる世界選手権があるからだ。そのため専門種目以外にも出場し、経験値や実力を高めたいと考えている。
そして、その世界選手権を見据えてW杯に臨んでいるのは、日本代表も同じだ。
JMSCAオリンピック強化選手S指定の楢﨑智亜は、今季のW杯ボルダリングへの出場は、マイリンゲン大会と中国で開催される大会のみ。2016年以来の年間王者獲得は来年以降へ持ち越される。
「今年は年間王者を狙うのではなく、世界選手権に一番力を入れています。世界選手権のために自分の弱点や課題を見つけるためのW杯だと思っています」