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“登りを楽しむ”というピュアな能力。
日本人クライマーの計り知れない強さ。 

text by

津金壱郎

津金壱郎Ichiro Tsugane

PROFILE

photograph byKiichi Matsumoto

posted2019/04/24 11:00

“登りを楽しむ”というピュアな能力。日本人クライマーの計り知れない強さ。<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

W杯スイス大会出場前の記者会見。左から藤井快、楢﨑智亜、野口啓代、伊藤ふたば。

伊藤ふたば「表彰台をねらって」。

 世界選手権に向けてJMSCAオリンピック強化選手S指定の楢﨑智亜、藤井、野口が、重要なシーズンを順調に船出し新たなスタートを切ったことで、それに続く選手たちも好結果を残している。

 男子は開幕戦で原田海、楢﨑明智が予選落ちするなか、緒方良行(8位)、石松大晟(9位)、土肥圭太(10位)が準決勝に進んだ。続くロシア大会では今年からW杯に出場できる年齢に達した高校1年の川又玲瑛が、デビュー2戦目にして決勝に進出して5位と躍進。昨年は決勝進出の壁に苦しんだ緒方が、2017年以来自身2度目の3位となって表彰台で笑顔を咲かせた。こうした選手たちの活躍に触発され、楢﨑明智や原田も調子を上げていくだろう。

 女子もマイリンゲン大会でアテンプト差の2位になった野口の存在感が際立つが、彼女に続く選手も開花が近いことを印象づけている。昨年のW杯ボルダリング年間女王のS代表・野中生萌が3月に負った故障のためにW杯に出場できないなか、JMSCAオリンピック強化選手S指定の伊藤ふたばが躍動した。

 昨年の伊藤はフィジカル強度の高い国際大会の課題に苦しんだが、開幕前は「去年よりフィジカルはついてきているのかなと思っています。今年は決勝に残りたいなと思っています。もちろん表彰台をねらっていきたい」と、自信を漲らせた。

 果たして、昨年は予選敗退したマイリンゲン大会で、今年は準決勝に進んで9位。目標達成とはならなかったものの、準決勝の第3、第4課題での完登までもう少しのパフォーマンスと、「惜しかった」と言わんばかりの笑顔を見せた。そして、ロシア大会では念願の決勝に進んで6位。今シーズン中の表彰台も時間の問題と思わせるものだった。

 昨年までの日本代表チームには、W杯で成績を出さなければ代表として生き残れないサバイバルな要素が少なからずあった。そのため順位を気にして本来のパフォーマンスを発揮できないこともあったようだが、今季は世界選手権が控えることによって、そのプレッシャーから解放されている。

 4月26日から28日にはW杯ボルダリング第3戦・スピード第2戦が中国で行われるが、純粋にクライミングそのものを楽しむ日本代表チームが、のびのびとした雰囲気のなかでどこまで成長を続けていくのか興味は尽きない。

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