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山川穂高が人生をかけて手に入れたもの。
フルスイングに隠された繊細さと覚悟。 

text by

鈴木忠平

鈴木忠平Tadahira Suzuki

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photograph byHideki Sugiyama

posted2018/03/16 11:30

山川穂高が人生をかけて手に入れたもの。フルスイングに隠された繊細さと覚悟。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

恐ろしい視線の中で放った2ラン。

 抜け殻になった山川のバットに再び何かが宿り始めたのは4年目を迎えた昨年7月のことだった。その日一軍に呼ばれると、早速、2点ビハインドの8回2死二塁の場面で代打として送り出された。バットを握り、打席へ向かう背中にベンチの視線が突き刺さっていた。この時、山川は絶望よりさらに恐ろしいものを背筋に感じたという。

「これ打てなかったら、クビだなと思ったんです。ああ、やっぱり山川はダメだったと思われて、それで終わりだなって。それまでは頑張っていれば結果は後から付いてくると思っていたんですが、結局、そういうことではなかった。誰も助けてくれない。だから、あの打席は結果を出しにいきました。極限の重圧を自分にかけていました」

 人生をつかみにいったフルスイング。打球は右中間スタンドへの同点2ランとなった。ベースを一周して「ふーっ」と深く息をついた山川の手には、この世界で生きていくために必要な感触が残っていた。

 人生の淵を覗き込み、そこから生まれたフルスイングは自分の原点になった。いつも、試合前のフリー打撃で山川はまるで宇宙まで飛ばそうとするかのようにバットを振り抜く。

「そんなに振らなくても、お前なら当たればホームランになるよ」

 周りからそう諌められるほど、めいっぱい振るのには繊細な理由がある。

「フリー打撃は遅い球を投げてくるわけですから、センター前に打つのは簡単なんです。でも120%で振ればミスショットも多くなる。難しいことをやることで、自分の可能性を広げられるんです。それに相手投手も見ている。だから、他チームの誰が見ても『山川、えぐいな』って思わせないといけない。それが後々、大事になってくるんです」

 みんなの目に焼き付けるのは「フルスイングの山川」だが、じつは朝も、ナイターが終わった後の深夜も、誰も見ていない室内練習場ではマシンを相手にきっちりとセンター返しを繰り返す。つまり「もう1人の山川」がいて、こうしてフォームの崩れを修正しているのだ。

【次ページ】 「困ったら初球から全力で振る」

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