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ファジアーノのDNAが花開いた瞬間。
勝ち点差19を覆した「最後の5分」。
posted2016/11/28 17:00
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph by
J.LEAGUE PHOTOS
これは、単なる下剋上ではない。
どのチームもできなかったことを、ファジアーノ岡山はやってのけた。
11月27日に行われたJ1昇格プレーオフ準決勝で、リーグ戦6位のファジアーノは同3位の松本山雅FCを2対1で撃破した。シーズン中の順位で劣るファジアーノは、引き分け以下に終わると決勝へ進出できない。彼らは勝つしかなかった。しかも、舞台はJリーグでも屈指の熱狂に包まれる松本山雅のホームである。長澤徹監督とその仲間たちに課せられたミッションは、かなり厳しいものだった。
不安材料はもうひとつあった。
J1昇格プレーオフのような短期決戦は、それも一発勝負のトーナメントでは、“勢い”が重要だと言われる。とりわけ順位が下のチームが90分以内で勝利するには、プラスアルファとしての勢いが欠かせない、と。
過去の昇格チームはどうだったのか。
'12年のプレーオフをリーグ6位で制した大分トリニータは、シーズン終盤の8試合を4勝1分3敗で終えた。目覚ましい勢いをつかんだわけではないものの、残り3試合に限れば2勝1分である。チーム状態は悪くなかったと言えるだろう。
'13年の徳島ヴォルティスは、3勝2分け3敗の五分の成績だった。ただ、残り3試合に限れば、大分と同じ2勝1分である。
'14年のモンテディオ山形は、ラスト8試合を5勝3敗で乗り切った。残り3試合は2勝1敗である。
'15年のアビスパ福岡は、プレーオフに圧倒的な勢いを持ち込んだ。31節から12試合負けなしでシーズン終盤を駆け抜け、35節からは8連勝を飾っている。
シーズン最後の8戦は、4分4敗と絶不調。
ファジアーノは対照的である。
10月2日に行なわれたFC岐阜戦を最後に、8試合連続で勝利から遠ざかっていた。ラスト8試合の成績は4分4敗である。ザスパクサツ群馬とのリーグ最終節は、3-0から同点に追いつかれてしまった。プレーオフに勢いを持ち込むどころか、勢いを失うような戦いをしていた。
'12年に6位からの昇格を果たした大分は、3位との勝点差がわずかに3だった。同様に6位からJ1へ到達した'14年の山形は、3位との勝点差が4である。
ファジアーノは違う。リーグ3位の松本とは、勝点で「19」もの開きがある。リーグ戦の対戦成績は1勝1分だったものの、簡単には埋めがたい力の差があったといっていい。