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ファジアーノのDNAが花開いた瞬間。
勝ち点差19を覆した「最後の5分」。
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2016/11/28 17:00
下馬評では不利と言われながらプレーオフ決勝に進んだファジアーノ岡山。シーズン6位からの逆転昇格なるか。
赤嶺がたった一度だけ手にしたスペースと時間。
背番号35を着けたセンターバックは、86分から最前線へポジションを移す。総攻撃のシグナルだ。「最後の5分でチャンスが来ると思っていたし、それは僕だけじゃなくみんなも言っていた」と赤嶺は話す。
ゴールの予感が漂っていたわけではない。岩政を上げるファジアーノのパワープレーに対して、松本もすぐに手当をしてきていた。それでも、ドラマは起こるのだ。
「真吾はずっと狙い続けていた。それはずっと受け継がれてきたファジアーノのDNAで、絶対に諦めない気持ちが出たと思う。そのひと言に尽きます」
92分、ペナルティエリア内で赤嶺がフリーになる。松本山雅の反町康治監督は「あんなに簡単にフリーになるとは、少し予想がつかなかった」と話したが、密集が出来上がっていたゴール前で、ファジアーノの背番号24がたった一度だけスペースと時間を得た。後半開始直後に決定機を逃していた赤嶺は、左足の柔らかなワンタッチシュートでボールを流し込んだ。
絶望の残響がスタンドを走り抜けるなかで、ファジアーノの爆発的な歓喜が弾ける。後半のアディショナルタイムは、あと2分しかない。もはや、スコアは動かなかった。
「リーグ戦の最後は少し苦しみましたが、しっかり積み重ねることはできていた。(41節の)清水戦で最後に追いつけなかったけれど、諦めない姿を見せた。選手たちには『うまく行かないときもあるけれど、自分たちはずっと勝ちに行く試合をやってきている』と、ずっと話していました。そのとおりに、苦しいときもいいときも、選手たちはブレずにやってきてくれました」
試合後の長澤監督は、「積み重ね」という言葉を使った。劇的さと残酷さが凝縮する90分だからこそ、この日に至るまでに流してきた汗が問われるということだろう。
長澤監督「どの試合も一発勝負みたいなもの」
12月4日のファイナルでは、リーグ4位のセレッソ大阪が待ち受ける。48歳の情熱的な指揮官は、「プレーオフは一発勝負ですが、僕らは1試合、1試合、大事に戦ってきた。そういう意味では、どの試合も一発勝負みたいなもの。挑戦者としてしっかりぶつかっていきたい」と話す。
試合後の慌ただしい記者会見のなかで、長澤監督は「我々はまだ、何も成し遂げていません」という言葉を繰り返した。先制ゴールをあげた押谷も、チームを牽引する岩政も、同じ思いを口にした。
松本山雅との死闘をくぐり抜けたことで、ファジアーノのDNAはさらに揺るぎの無いものとなっている。