野ボール横丁BACK NUMBER
完封負けも「しょうがないじゃない」。
日本文理“大井節”は最後も穏やか。
posted2014/08/24 18:00
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
Hideki Sugiyama
日本文理の監督、大井道夫の敗戦後のコメントは、今年も潔かった。
「しょうがないわ。相手が上だった。それは認めざるをえないよ」
大井の試合後の囲み取材は、いつも暖かい笑い声に満ちていた。
出場監督中、最年長となる72歳。お立ち台に上がり、帽子を取ると、達磨大師のような風貌が現れる。語り口は、朗々としていた。
「子供たちは、よくがんばったナー」
勝ったときは開口一番、そうして選手を讃えた。その調子が、厳しい勝負の場とどこか不釣り合いで、記者たちも、思わず口もとが緩んでしまうのだ。
大井の目指す野球はシンプルだ。
「とにかく打てるチームをつくりたかったんだよ。いっつも打てなくて負けてきたから。俺の願望だな」
普段から、練習の7割から8割をバッティングに割く。アップを15分程度行い、キャッチボールさえせずに、すぐにバッティング練習に入る。
部長の佐藤琢哉が苦笑する。
「バッティングピッチャーがいちばん大変ですよ。肩作る時間がない(笑)」
3日間連続してバッティング練習しかやらなかったときは、選手の方から「今日は守備練習をやらせてください」と懇願されたという。
「がっかりしたナー。ホームランねらって欲しいのに」
振り切れ――。大井は口を酸っぱくして繰り返す。
「金属バットは芯に当たらなくても飛ぶんだから。でも、バットのスピードがないとダメ。だから、とにかく振り切れっていうんだよ。大振りしろってことじゃないよ。最後まで振れ、って」
送りバントも「好きじゃない」と、ほとんどしない。その代わり、当てに行くようなスイングをした選手には失望の色を隠さない。
3回戦の富山商戦で、強打者の9番・飯塚悟史が投手ゴロのゲッツーに倒れたときもそうだった。
「がっかりしたナー。ホームランねらって欲しいのに。だってさ、ホームラン出たら、一発で流れ変わるよ」