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膨大なデータの海から、
プロ野球の真実を探る。
~セイバーメトリクス入門書への提言~ 

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小川勝

小川勝Masaru Ogawa

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posted2012/04/17 06:00

膨大なデータの海から、プロ野球の真実を探る。~セイバーメトリクス入門書への提言~<Number Web> photograph by Sports Graphic Number

『プロ野球を統計学と客観分析で考える セイバーメトリクス・リポート1』 岡田友輔他 著 デルタ 2200円+税

 野球選手の価値をより正確に反映したデータとはどういうものか。このテーマについて書かれた文献は、日本にも昔からあった。だが、そういった研究自体が、野球ファンの単なる楽しみではなく、実際のプロ野球界でも活用可能な意義深い研究であることが一般に認知されたのは、2004年に『マネー・ボール』が日本で出版されて以降のことだろう。この本がブラッド・ピットの主演で映画化され、「マネーボール理論」の概念は、野球ファンの間で、一般常識に近いものになったと言える。

 この『セイバーメトリクス・リポート1』も、そういった野球ファンの関心に応えようと出版されたものだろう。セイバーメトリクスとは、「米国野球学会」の略称SABRと、「測定基準」を意味するmetricsを合わせた造語で、あえて訳せば「野球統計学」だろうか。

 これを語るには、どうしても、基礎データになる様々な数字や、時には数式も使うことになるので、野球ファンの広い層に親しんでもらうには、数字や数式の意味を、どれだけ分かりやすく伝えられるかが、大きなカギになる。

数式の「意味」を説明しないと、データの信頼性は上がらない。

 数字が多くなる本を、分かりやすくするのは簡単ではない。その意味ではこの本も、もう少し工夫できる部分があったかと思う。

 例えばまず、最初の章にはパ・リーグ各チームの2011年データと、2012年に向けた考察が載っている。ダルビッシュ有が抜けた日本ハムの「チームスタッツ」というページを見てみると、最初に「ダルビッシュのFIP、投球回、奪三振率、被本塁打率は両リーグ通じてトップ」という一文がある。しかしFIPとは何かという説明は、そのページには出ていない。その章の冒頭にも出ていない。どこに出ているのか探してみると巻末の用語解説に出ている。

 FIPはFielding Independent Pitchingの略で、投手成績の中から、バックの守備力に左右されない与四球、奪三振、被本塁打という三つの項目に注目した「守備力の関与しない防御率」とも言うべき数字だ。これは興味深い数字だが、その計算式はかなり長い。長いこと自体はいいのだが、例えば、計算式の最初が「13×被本塁打」で始まっている。なぜ、被本塁打の数に13を掛けるのか。被本塁打を13倍することにどういう意味があるのか。これが理解できないと、FIPが、本当に「守備力の関与しない防御率」として信頼に足るものなのか、野球ファンは判断できないはずだ。

【次ページ】 日本ハムの今年の戦い方についての的確な展望。

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