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“3年生の意地”が逆転を呼ぶ!
智弁和歌山・高嶋監督の名采配。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2009/08/19 12:50
今年の智弁和歌山は「強打の智弁」ではないが……。
練習は技術向上のためにある。だが、高嶋監督はノックから選手たちの精神を鍛え上げる。そして、3年生の夏までには「これだけやったんやから」という自信を植え付けていく。それが結局、最後の夏に土壇場で爆発するのだ。
だから3年生にこそ、その想いが一番強い。
今年のチームは高嶋がいつも目指す「強打の智弁」ではない。ドラフト候補のエース・岡田俊哉を中心にしぶとく粘るチームだ。県大会でのチーム打率.248は「強打」とは言えないし、県予選では一度としてお家芸の逆転勝ちをしていないのは過去のイメージからすると、物足りなさが残った。だから札幌第一との試合のようなビハインドを背負う試合展開になったら「苦しいだろうなぁ」という懸念があった。
大記録達成も、選手に感謝する名将・高嶋監督。
しかし……それでも試合をひっくり返した。
練習によって鍛え上げられた精神力が一気に解放された。3年間高嶋野球の試練に耐えてきた3年生のその思いの深さが、想像を超えた爆発力を生む。それを高嶋は知っているのだ。
「通算勝利数は、監督がどうこうできる問題やないからね。それだけ長(なご)うやっとるというだけで、選手たちにこそ一番感謝せんといかんですね」
記録達成が迫ると常々そう口にしてきた高嶋監督。この大記録達成の本当の価値は、その数字ではなく、選手たちの気持ちを深く理解してきた高嶋監督の心の中にある。