Column from GermanyBACK NUMBER
カイザースラウテルンの憂鬱
text by
安藤正純Masazumi Ando
photograph byAFLO
posted2005/09/30 00:00
序盤戦で2勝1分3敗のチーム成績をどう評価するかは、微妙なところであろう。18チーム中11位は「まずまず」なのか、それとも「こんなはずじゃなかった」のか。次の試合で勝てば一気に上位へ、負ければ反対に降格ゾーンに突入するのだから悩みは尽きないというものだ。
それはいちばん強く実感しているのがカイザースラウテルンの新監督ミヒャエル・ヘンケである。15年という長きにわたり、名将オットマール・ヒッツフェルトのアシスタントを務めてきた。これまでヒッツフェルトの横には必ずヘンケの姿があった。
背が高く、メガネをかけ、どこから見てもインテリ風。実際、彼の専門知識はずば抜けて豊富だ。女性にもてるタイプだと思ったが、国内での人気はほとんどないらしい。私の知り合いの女性記者は、「あんな痩せて頼りないヤツより、豪快で男気に溢れ渋さが光るアッサウアー(シャルケ04のGM)のほうがずっとセクシーだわ」と言うではないか。
これまで獲得したタイトルはチャンピオンズリーグ2回、ブンデスリーガ7回、DFBカップ3回、トヨタカップ2回など。しかし全てはヒッツフェルトの手柄であり、ヘンケに光が当たることはなかった。また黒子役だったため、「ヘンケは監督の資格を持たない」などと陰口を叩かれた。こうしたこともあって本人は“下積み”から抜け出したいとずっと願っていた。
そしてようやく念願が叶い、ラウテルンの監督に就任した。早稲田大学で柔道留学した経験を持ち、日本語も達者なレネ・イェギ会長は、「ヘンケは最高レベルの戦術と実績を持つ監督だ」と褒め上げるものの契約期間はわずか1年。一応、1年延長のオプション付きだが、成績が良ければの話である。
そんなことがあってシーズン開幕からラウテルンに注目していたのだが、戦術面での斬新さや面白さがまったく感じられない平凡極まりないチームと判明してガッカリである。旧態依然の「キック&ラッシュ」が支配し、MFのゲームメイクはほとんど存在しない。背後からロングボールを前線に放り込むか、サイドからFWアルティントップ目がけて単純なセンタリングを上げて
“あとは任せたぞ”のスタイル。これが戦術の専門家が目指したサッカーなのか……。
間違ってもパスゲームの楽しさは味わえない。つまり、「速く、強く、高く」の一点張り。トーナメントに強い超合理主義サッカーは、目先の勝利しか追及できない。選手のテクニックを向上させる意識にも乏しい。あまりに多い選手のイージーミスに、ファンからは何度もブーイングが飛ぶ。
「おらがチーム」しか楽しみのない地元住民はそれでもスタジアムに足を運ぶことだろう。だが負けが続き、ヘンケがクビを切られたとしても同情するファンは出てこないはずだ。ヘンケにはラウテルンがもっとも嫌うバイエルンのイメージが染み込んでいるからである。
「難しい仕事だが乗り越えられるだろう。私には自信がある」と本人は強気を装うものの、親分肌の監督に親近感を抱くこの土地柄で、「アシスタント」「バイエルン」「インテリ」の代名詞が好感を持たれるとは思えない。退屈な戦術と稚拙なテクニックがさらに輪をかけているのだし。