F1ピットストップBACK NUMBER
最悪の条件下で、入賞まであと18秒。
可夢偉の能力はさらに上がっていた!
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byHiroshi Kaneko
posted2011/06/30 10:30
テクニカルディレクターのジェームス・キーは「ピットストップを3回にした方が良かったかもしれない」などとレース後に語り、チームの可夢偉に対する戦略が過ちだったことを発表。可夢偉は「結果なんで何ともいえないです……」と悔しさを滲ませたコメントを残した
小林可夢偉の連続入賞記録が「6戦」でストップした。
2戦前のモナコGPでは日本人最高位となる5位入賞。前戦カナダGPではレース終盤まで2番手を走行しての7位と、ここ数戦は上り調子だっただけに、ヨーロッパGPでの16位という成績は期待はずれの残念な結果となってしまった。
しかし、なぜ可夢偉が今回入賞できなかったのかを考察すれば、それほど悲観する必要はない。
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ヨーロッパGPで可夢偉が入賞を逃した要因は、3つある。
ひとつは可夢偉が駆るザウバーのマシンがヨーロッパGPが行われた市街地コースを得意としていないからである。
確かに昨年もヨーロッパGPは、今回と同じバレンシア市街地サーキットで開催され、そのとき可夢偉は元王者のアロンソをレース終盤にオーバーテイクして7位入賞を果たしている。
しかし、それはレース序盤にセーフティカーが導入され、1ストップ作戦を予定していた可夢偉が幸運を見事にモノにした結果だった。その証拠に昨年のヨーロッパGPの予選は18番手。Q1で敗退していたのである。これが可夢偉の腕に原因があるのではなく、ザウバーというマシンに問題があることは、昨年のヨーロッパGP予選でチームメートだったデ・ラ・ロサも16位に終わっていることが物語っている。
「厳しい戦いを覚悟していた」3戦で2度入賞したことを評価すべき。
ザウバーのマシンは前身のBMWザウバー時代からストリートコースを苦手としている傾向があり、昨年はモナコで予選16位、カナダでは18位と可夢偉も手綱をさばききれなかったものである。もちろん、その課題を克服しようと、今年のマシンを開発するにあたって、さまざまな要素を見直して設計されてはいるものの、マシンが持つキャラクターは一朝一夕に変わるものではない。そのことは実際にマシンに乗っている可夢偉自身が痛感していた。
「もともとモナコ、カナダ、そしてバレンシアの3戦は僕たちにとって一年間でもっとも厳しい戦いを強いられるグランプリだと覚悟していたので、ある程度、こうなることは予想していました」
つまり、逆説的に考えれば、むしろこの3戦で2度入賞したことのほうをポジティブにとらえるべきだろう。