F1ピットストップBACK NUMBER
最悪の条件下で、入賞まであと18秒。
可夢偉の能力はさらに上がっていた!
text by

尾張正博Masahiro Owari
photograph byHiroshi Kaneko
posted2011/06/30 10:30

テクニカルディレクターのジェームス・キーは「ピットストップを3回にした方が良かったかもしれない」などとレース後に語り、チームの可夢偉に対する戦略が過ちだったことを発表。可夢偉は「結果なんで何ともいえないです……」と悔しさを滲ませたコメントを残した
マシンのアップデートが無い状況に可夢偉は苛立つ。
2つめの要因は、ザウバーのマシンがコースに不向きだったにもかかわらず、チームがマシンをしっかりとアップデートできなかったことである。
F1マシンは外観が同じように見えても、細かい部分で日々改良が施されている。トップチームはグランプリごとに新しいパーツをサーキットに持ち込んでおり、「F1では停滞は後退を意味する」と言われる所以となっている。
そんな近代F1において、今年のザウバーは5月中旬に行われた第5戦スペインGPを最後にアップデートパーツが実戦に投入されない状況が続いているのである。今回ヨーロッパGPで可夢偉が後塵を拝することとなったトロ・ロッソとフォース・インディアはバレンシアに新パーツを投入していた。
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マシンのパフォーマンスが大きく結果を左右するF1では、この差は歴然。可夢偉も「チームの尻をそろそろ叩かないと」と、マシンの改良を進めることができない現状に苛立ちを見せていた。
レース直前に変更したピットストップ戦略も功を奏さなかった。
そして、入賞できなかった3つめの要因が、ピットストップ戦略である。
予選後のミーティングでは当初、可夢偉がスタート時に履くタイヤは硬めのミディアムだった。ヨーロッパGPで初めて投入されたピレリのミディアムタイヤは遅いわりにロングランも安定しない扱いづらいタイヤだった。そのため、可夢偉はこのタイヤをジョーカー(捨て)タイヤとして使用するため、渋滞の中で走行することになるレーススタート時に使用することを考えていた。
しかし、チームは突然、戦略を変更するのである。
スタート時にソフトタイヤを装着しての2ストップ作戦を敷くこととなった。さらに、まだロングランできる状況にありながら、スタート時に履いたソフトタイヤを11周目に交換し、ここでミディアムを装着。扱いにくいタイヤをそこから2度目のピットストップとなる33周目まで履き続けるという、22周のロングランを強いられることとなった。