詳説日本野球研究BACK NUMBER
逸材を守れ。
~亜細亜大・東浜の可能性~
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byAkane Ohara
posted2009/05/22 06:02
亜大の1年生投手、東浜巨が東都大学リーグにデビューして以来、4連続完投勝利(初登板から3連続完封はリーグ記録)を達成し、時の人になっている。延長10回を投げ抜いた4月21日のデビュー戦(亜大1-0中大)こそ見ることができなかったが、5月5日の第2戦(亜大1-0国学院大)、5月8日の第3戦(亜大4-0国学院大)、5月12日の第4戦(亜大5-1立正大)を見て、間違いなく東京六大学リーグの斎藤佑樹(早大3年)に次ぐスター選手が大学球界に誕生したと思った。
12日には亜大選手を乗せたバスが到着する神宮球場正面にテレビカメラが待機し、試合中は放送予定がないにもかかわらずテレビブースのシャッターががらがらと開いてスタッフが試合を観戦し、外ではテレビカメラが試合を撮影するという物々しさ(ニュース撮影していたらしい)。実力日本一のリーグと言っても、平日開催のためカメラクルーどころか一般観客さえまばらな東都大学リーグの試合にこれほどのマスコミの脚光が浴びせられるとは、開幕前には夢にも思わなかった。
ファンやマスコミが押し寄せない方がいいのだが……。
慢性的な観客の少なさに泣くことさえ忘れていたリーグ関係者にとって、東浜の出現はどう映ったのだろうか。
大観衆が神宮球場に押し寄せる、テレビ中継される、スポーツマスコミ以外のマスコミが大挙して押し寄せる――そんなことを夢見たのではないか。それらはいずれも斎藤佑樹が早大入学と同時に、東京六大学リーグにもたらしたものばかりである。
しかし、そうならないほうが東浜にはいいと思っている。多くの観客とマスコミが押し寄せれば、(1)投球フォームの冒険(新発想)ができづらくなる、(2)勝つことを求められるあまり腕を振ることよりも制球重視になり、ピッチングのスケールを小さくする、という弊害が起こりかねない。早大の斎藤佑樹は順調に成長しているが、今シーズンに限っては“負の2条件”にとらわれている印象がある。
さて東浜のピッチングだが、最も特徴的なのは始動のときのゆったり感である。左足を上げようとしながら爪先が地面に触れた状態で1秒くらい止まり、そこから再始動するという動き。このゆったり感は、沖縄尚学時代、昨年のセンバツ大会でも目についた。
ちなみに、始動した瞬間にストップウオッチのスタートボタンを押し、投げたボールがキャッチャーミットに収まった瞬間にストップボタンを押して得られた数字は、優勝した昨年春の選抜大会準決勝の東洋大姫路戦が2.06~2.12秒だった。プロなら東浜が目標にするダルビッシュ有(日本ハム)がこれくらいで投げる。このことについて、昨年夏の取材で東浜はこんなふうに答えてくれた。
小関 「いいと思うのはフォームがゆったりしているところ。その分、体重が軸足に乗ったり、ステップをゆっくり出していける。特筆できるのが始動時にゆっくり足を上げることですね」
東浜 「それは中学時代からずっと意識していました。最初は焦る部分があって、気持ちにゆとりを持つ意味で足をゆっくり上げたんですけど、それがよかったんですね」
記録ラッシュの東浜だが、まだまだ本調子ではない。
本人も自覚している投球フォームのゆったり感だが、実は亜大に入学してから、そのよさは失われている。<2.06~2.12秒>の数字を基準に僕が見た過去3戦の投球タイムを振り返ってみよう。
◇5/5 亜大 1-0 国学院大 1.67~1.86秒
◇5/8 亜大 4-0 国学院大 1.70~1.85秒
◇5/12 亜大 5-1 立正大 1.66~1.86秒
これらでわかるように東浜の投球タイムは明らかに0.3秒程度速くなっている。始動時の足上げがゆったりしながら投球フォームが速くなっているというのは、フィニッシュまでの動きがせかせかしているということに他ならない。
記録ラッシュの快進撃を飾りながら絶好調ではない、と言うのは非常に心苦しいが、ストップウオッチのタイムを基準に考えればそう言うしかない。それが大観衆やマスコミが大挙して押し寄せれば、ピッチングの矯正に時間を割くのはますます難しくなるのではないか。だから東都大学リーグは今のままの球場環境のほうがいい、という理屈。皆さんはどう思うだろうか。