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ハミルトン、今季初優勝。
名門F1チームを救った“お荷物”とは。
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byHiroshi Kaneko
posted2009/08/01 08:00
ハンガリーGPで今季初優勝を飾ったマクラーレンのハミルトン。KERS搭載車での優勝はF1史上初である
ハンガリーでチャンピオン・ハミルトンが復活! 昨年の中国グランプリから数えて11戦ぶりの勝利であり、表彰台も今年これが初めて。昨年は同じマクラーレンのコバライネンが独走するマッサのエンジン・ブローに乗じて劇的な初優勝を遂げたが、ハンガロリンクの丘にはマクラーレン・メルセデスを愛でる勝利の女神が棲んでいるのだろうか?
3戦連続Q1敗退の屈辱を味わったハミルトン。
ひょっとしたら今年このまま勝つことはないのかもしれない……夏休み突入前のハンガリー・グランプリを迎えて、名門マクラーレン、フェラーリを見る関係者の目は冷ややかだった。
序盤を圧倒したブラウンGPの速さに翳りが見えて来たのが2戦前のイギリス。それとシンクロするようにレッドブルが急台頭し、覇権争いはこの2チームにまかされた感が強く、マクラーレン、フェラーリはチャンピオン争いの蚊帳の外。なにしろハンガリーGP前の時点でチャンピオン:ハミルトンを擁するマクラーレンはコンストラクターズランキング6位(14点)、コンストラクターズチャンピオンのフェラーリは4位(32点)。首位のブラウンGPの112点の貯金に較べると、天地雲泥の差だった。
それでもまだフェラーリはモナコでライコネンが、ドイツでマッサがそれぞれ3位表彰台に上がり赤い勝負服が伊達ではないところをアピールできたが、マクラーレンの方は悲惨きわまりなく、ハミルトンなどモナコからイギリスまで3戦連続Q1敗退というありさま。同チームはすでに今年の勝利をあきらめ、来季マシンの開発に軸足を移したと噂される始末だった。
名門マクラーレンが不振に陥った理由とは。
不振の原因は多々あれど、名門の残る2チーム、ルノーとBMWもそれぞれコンストラクターズランキング7位、8位と下位低迷であるところをみるとこれら4チームになんらかの共通点があるはずで、その背景として昨年のシーズン終盤までマクラーレンとフェラーリはチャンピオンを、BMWはコンストラクターズランキング3位を、ルノーは1勝をかけて争っていたがために今年の新車開発が手薄になったことがまず挙げられる。またハードウエアでみると4チームともKERS(エネルギー回収システム)搭載車であり、さらにはブラウン、トヨタ躍進の大きなキーとなったダブルデッカー(二層式)ディフューザーを装備していなかったことも同じだった。
そのことが判明したのはシーズン序盤のフライアウェイ4戦で、遠隔地とあっては急な対応はできず“旧”名門4チームのマシンが変わったのはヨーロッパ戦に入ってから。それぞれダウンフォースを増やすべく空力のアップデートにかかったのは当然としても、KERS対策に関しては二手に分かれた。ルノーとBMWは搭載を休止。また、フェラーリも金曜日試走でKERSを使わなかったこともあるし、イギリスでのハミルトンも外して走った。シルバーストンはエネルギー回収に必要な低速コーナーが少ないためにフル充電するまでに2周を要し、またスタートラインから1コーナーまでの距離が短いために、宝の持ち腐れになるからだ。
しかし、マクラーレンもフェラーリもKERSを捨ててはいない。同システムの問題点は、バッテリー搭載位置がほぼエンジン下部周辺に定められるために重量バランス調整の自由度が低いことだが、それを外したからといっていまさらマシンの基本骨格を大きく変えられるわけではない。それならむしろ使い続けた方がリスクは少ないとマクラーレン、フェラーリは判断したのではないか。