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日本代表 あと10ヵ月でできること。 

text by

風間八宏

風間八宏Yahiro Kazama

PROFILE

posted2005/09/01 00:00

 もっと楽にアジアを勝ち抜けるはずだ──。

 選手も、見ているファンも、そう考えていただろう。だが実際、日本は研究され尽くしていた。フランスやスペインがW杯予選で苦労していることから分かるように、“負けない戦い方”をしてくる相手に勝つことはとても難しい。だからこそ11勝1敗で予選を乗り切ったことは、むしろ素晴らしいといっていいだろう。

 ワールドカップまで、あと10カ月。世界と戦うために日本代表は何をすべきなのか。

 これを考えるにはまずジーコがどういう指揮官なのかを知る必要がある。当初、私は彼をどう見たらよいのか分からなかった。それは彼がチーム作りの設計図を持っていないように見えたからだ。例えば基本方針としてスペースを埋める戦術をとるのか、人に負けない戦いをするのか、という点も明示されていなかった。

 ただひとつ、彼は選手の自主性だけは重んじてきた。具体的に言えば、中田英寿や、中村俊輔に対して、ピッチの上で自由に自己表現することを許してきた。チームの方針を決め、それに沿った役割を選手に課すというやり方は、強化への近道かもしれない。だが枠を決めてしまうと、選手は枠の中から出ない。想像を超えるようなプレーは生まれてこない。役割に縛られると“人”が見えなくなり、人と役割が逆転してしまうのだ。

 日本人の可能性を信じる──。我々は無意識のうちに、日本人が自由なサッカーを確立することは困難だと思っていた節がある。トゥルシエもしかり。だがジーコだけは、日本人を色眼鏡で見ていなかった。

 一時期、苦しんでいた中村をジーコは外さなかった。“10番の役割”が出来ていないと判断せず、信じていた。川口(能活)にしても、「お前はやれるんだ」と使い続けてきた。たとえ時間がかかろうとも、日本人個々の力を信じ、集結するやり方を監督であるジーコは選択し、W杯切符を勝ち取ったのだ。

 6月のコンフェデ杯。世界の強豪を相手に日本は輝きを放った。王者ブラジルを追い詰め、スタジアムの喝采を浴びた。この輝きの片鱗を確かなものにし、どんな相手に対しても強さを発揮するためには、自分たちの“得意なスタイル”を確立する必要がある。

 例えばメキシコ戦。ボールを獲るために相手を囲みに行くと、逆に相手にかわされ、スペースを与えてしまった局面が多かった。こういうケースは、「獲れないんであればいかない」という個人の判断の速さと修正が必要だった。これが出来ているのが、中田や中村ら欧州組である。自分がどういうプレーをすれば相手と対等に戦えるか、どこが負けないかが分かっている。彼らは決して相手の強いところでサッカーをしない。

 そしてもう一つ。ドイツで世界を驚かせるためには、個人の自覚が欠かせない。

 欧州組不在の直近4試合を見たが、チームとしてのまとまりはあったものの、“怖さ”は感じられなかった。中田や中村、高原直泰、小野伸二らは、選手に対して個々のキャパシティ以上の要求を突きつける。

 「そうじゃない、お前らまだできるだろう」と。

 アジア杯で結果を残したメンバーに対しても、中田たちは、“もう一つ上の次元”を見せた。勝つという意欲を誰よりも持っていないと、チームにものを言う勇気は出てこない。もちろん、うまいやつじゃないと、グラウンドでものは言えない。ミスをする選手が何をいっても、周りは受け入れないからだ。欧州組が合流したチームにはいつも、緊迫感がみなぎっている。大黒将志、加地亮、福西崇史……。欧州組の刺激をうけて、この半年で成長した選手のいかに多いことか。

 “役割ありき”の集団はたかがしれている。だが、“個人ありき”が集ったチームは強い。可能性を持った11人が集まって、日本がどこまでいけるかを見せてほしい。個人を重んじるジーコとともに挑むドイツW杯は、日本人が個人としてどこまでやれるのか、それが分かる大会になるのかもしれない。

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