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アテネ2004体操男子団体メンバーに滑り込みで選出→金メダル獲得で日本体操界の未来を託された水鳥寿思の人生「わらしべ長者じゃないですが…」 

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矢内由美子

矢内由美子Yumiko Yanai

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photograph byTakuya Sugiyama / AFLO

posted2024/07/10 10:00

アテネ2004体操男子団体メンバーに滑り込みで選出→金メダル獲得で日本体操界の未来を託された水鳥寿思の人生「わらしべ長者じゃないですが…」<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama / AFLO

アテネ2004体操男子団体で金メダルを獲得し、現在は男子日本代表監督を務める水鳥寿思 ©IOC-All Rights Reserved.

「米田さんが『怖かったー』と言って…」

「決勝になったらいきなりピリピリした空気になり、お互いに励まし合う余裕もないほど。みんな自分のことでいっぱいいっぱいで、重圧に耐えることに必死でした。驚いたのは、僕らの中では完璧な人間みたいな方だった米田さんが、1種目目のゆかに出てからサブ会場に戻ってきた時に『怖かったー』と言って僕にもたれかかってきたことです。僕も怖くなりました」

 アテネ2004はそれまでの「6-5-4(5人が演技、上位4人の点を合計)」から「6-3-3」に切り替わった大会(※パリ2024は5-3-3)。1人のミスも許されないうえに、ノーアップで演技を行なうという厳しいルールだった。米田とともにゆかの演技をした塚原直也、中野大輔も緊張はぬぐえず、日本はゆかで出遅れた。

 水鳥の出番は3種目目のつり輪のみだった。出番が近づくにつれて恐怖感が増したが、つり輪を握って逆さになり、上を見た瞬間に各国の国旗が目に入ってきた。

「国旗が見える。大丈夫だ」と落ち着きを取り戻した水鳥の得点は9.625点。国内選考会で9.100~9.200点だったところから3カ月で大幅に点を上乗せできた。「任務を果たせた」という充実感があふれた。

 チーム全体も種目を重ねる毎にいつも通りの演技ができるようになり、自然と点が伸びていった。ラストの種目は鉄棒。最終演技者である冨田が車輪を始めると、傍らで見守る5人の選手たちの顔には明るい笑みが広がっていた。

「実は鉄棒が始まる直前まで、金メダルが獲れそうだということに気づいていなかったんです。試合中は自分のことで必死だったし、僕は鉄棒のリザーブだったので直前までサブ会場で練習していたからです。鉄棒はその日初めて6人全員で入場した種目で、その時にチームのみんなが『あれ? 金メダルいけるんじゃない?』と気づいた感じでした。僕は『マジ? 凄いじゃん』と、自分のことじゃないような不思議な感じで応援していましたね」

 笑みを見せていたのは水鳥だけではない。冨田の演技が始まった時点で他の選手は全員がすべての演技を終えており、緊張感から解き放たれていた。もちろん、冨田への揺るぎない信頼がもたらす表情でもあった。

「自分の役割は終えた、あとは冨田がやってくれ。みんながそんな気持ちだったと思います」

男子代表監督として3度目の大舞台へ

 冨田は離れ技の「コールマン」を決め、最後の降り技で「伸身の新月面宙返り」をピタリと着地した。日本はモントリオール1976以来、28年ぶりの団体金メダル。水鳥たちは飛び上がって喜んだ。アトランタ1996、シドニー2000と2大会連続で表彰台に上がることすらできず、存在感が消えかけていた体操ニッポンがよみがえった瞬間だった。

「僕自身はアテネ2004に出ることを目指して、次は認めてもらうことを目指して、最後の最後にラッキーが来たような感じでした」

 それから20年。日本はこの間、リオ2016の金メダルを含めてすべて銀メダル以上を手にしている。アテネ2004で栄光の歴史をつなげたことが、お家芸としての存在感を膨らませている。

 水鳥は引退直後の2012年に体操界史上最年少の32歳で日本体操協会の男子体操代表監督・強化本部長に抜擢され、パリ2024は男子代表監督として3度目の大舞台となる。ほかにもJOCの選手強化部門の要職に就き、慶應義塾大学准教授の肩書きも持つ。

「金メダルを獲る前はアテネ2004に出ることが自分の人生そのもので、当初は金メダリストであることに自分が追いつけていないという感覚がありました。でも、わらしべ長者じゃないですが、結果が結果を呼んで、新しいステージやさまざまな機会に繋がってきたと思います。金メダリストになっていなかったらというのは、全く想像できないですね」

 一方、そういった流れの中で考え方に変化が生じている部分がある。

「以前の僕はゴールから逆算をし、自分が頑張って勝ち取り、喜ぶような人でした。今、感じているのは、目の前のことを誠実にやっていると、見ていてくれる人が思いもよらぬチャンスをくれることもあるということです」

 パリ2024で体操ニッポンが最大の目標とするのは団体金メダルだ。

「僕が見どころとしてお伝えしたいテーマは全体でいうと大きく2つあって、1つは銀メダルだった東京2020のリベンジ。団体メンバーは東京2020から3人(橋本大輝、萱和磨、谷川航)が残ってくれたので、その執着心は強いはずです。団体銀だったロンドン2012から金を獲ったリオ2016に向かう時もそうでしたが、金メダルに対する彼らの貪欲で強い気持ちを知った上で試合を見てほしい。もう一つは、今の選手は橋本を中心に仲間をすごく応援する文化があるので、その様子も見てほしいですね。僕らの時は個の集団で、一言も声を交わさずにそれぞれの練習を見ているようなチームでしたが、今はお互いに声を掛け合って盛り上げていくメンバー。その明るい雰囲気をぜひ見てもらいたいですね」

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