「このレベルの選手がレギュラーで3人もいたら甲子園に行けるんじゃないかと思ったほどです。一方、バッティングに関しては、ポテンシャルは秘めつつも、目立つ存在ではなかった。ここの動きが無駄だよ、こういう動きをすれば果てしなく打球が飛んでいくよ、という指導をしましたが、本人はその打ち方にかなり違和感があった印象です。いい打ち方をしてすごい打球が飛んでいったのに、本人は首を傾げている光景をよく見ましたね。ずいぶんと指導はしましたが、本人がある程度納得しないと実践できませんから、最終的には本人に任せていました。それでも、高校生相手ならそこそこヒットは打っていましたけども」

　守備についてはベタ褒めだが、打撃についてはもどかしい気持ちを滲ませる評価からは、「1000年に1人」は言いすぎに聞こえてくる。

「新聞社のアンケートで、宮崎について『開成、1000年に1人の外野手』のようなことを書いたのは間違いないです。私が言いたかったのは、宮崎が外野にいるという状況が希少だということ。バッティングだけなら彼よりはるかにいい選手は何人も見てきましたが、彼レベルの高い守備能力を持った選手が開成の外野に君臨するというのは1000年ないでしょう」

開成高時代の宮崎。外野を守った

　内野手が毎度エラーしていては試合にならず、一定の能力がある選手については、内野を守らせざるを得ない。しかし当時の開成には「内野においてもどうにか許せる」（青木）レベルの選手が数人集まっており、能力の高い宮崎を奇跡的に外野手に置くことができたというわけだ。

「そうした色々な歯車が合わさっての『1000年に1人』なんです」

「東大野球部に入るだけなら簡単なこと」

　宮崎という秘蔵っ子を抱え、夏の甲子園予選では例年とはひと味違う開成旋風を巻き起こせるかもしれない。そんな密かな青木の高揚感が伝わってくるエピソードだ。だが、くじ運は味方せず、1回戦から強豪の安田学園と激突し、コールド負け。「1000年に1人」は、誰の話題にものぼらず静かに鎮火した。それが、宮崎の神宮球場デビューによってくすぶりだすのである。青木が振り返る。

2018年の東東京大会1回戦。宮崎がいた開成高は強豪の安田学園と激突し、コールド負け　©Sankei Shimbun

「東京六大学リーグの試合中継を見ていたら、宮崎の紹介文で『開成、1000年に1人の逸材』と書かれていました。『あれ？　これ俺が昔書いたやつだぞ』と、びっくりしましたよ（笑）」

　開成高校野球部を1999年から率いる青木は、自身も東大野球部OBだ。そのため、高校野球の試合での勝利だけでなく、東大野球部での活躍も見据えた指導を生徒たちにおこなっている。これが宮崎や後述する奥野雄介（22年卒）の指針となったのである。

「高校野球で都内ベスト8になるというレベルではなく、東京六大学野球というもっと上のレベルを目指してほしい。東大野球部に入るだけなら、開成野球部員にとっては簡単なことですが、入ってから活躍できるような選手になれと言っています。その気概があれば、相応の練習をするようになるし、そうすれば高校野球でも勝てる」

「週1回だけ野球をやる筋トレ部」だった

　そのために青木が重視する練習が、打球を遠くに飛ばせる強いバッティングと、いつでもストライクが取れるピッチングだ。

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