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「開成高野球部、1000年に1人の逸材」偏差値70超・東大合格者全国1位の開成高から東大野球部で主力になった“スゴい天才”ってどんな人生?
text by
沼澤典史Norifumi Numazawa
photograph bySankei Shimbun
posted2023/04/04 11:04
東大野球部のリードオフマンとして活躍した宮崎湧。4月から日本通運の硬式野球部に入部。宮崎には「開成、1000年に1人の逸材」というキャッチコピーがある
そのため、「野球もしっかりやりたかった」という宮崎は開成中学の軟式野球部ではなく、地元、千葉のボーイズクラブに入団した。開成中学は土曜午前も授業があり、その時間はボーイズの練習に参加できないハンデを乗り越え、3番ライトとして活躍。中心選手となり、チームも関東大会まで進出するなど順調に力をつけていった。だが、この時点では社会人はおろか、東大野球部に進むことも考えていなかった。
「ボーイズはしっかりした守備練習がメインで、打撃については、『上から叩け』のような昭和っぽい指導。体の大きい選手は距離を飛ばせますが、僕の体格だと、思ったほど長打にはならない。そういう練習環境の中にあって、自分は今後もっともっとうまくなれるだろうという、伸び代のイメージを得られなかったんです。だから、野球をやるのは高校までだなと思っていました」
「外野ノックはゼロ」開成高校の独特な練習法
成長の天井を感じていた宮崎を東大野球部まで導いたのは、開成高校野球部監督の青木秀憲だ。青木の指導は、とにかく打つことを優先。開成高校はバッティングに振り切った練習をし、ウエイトトレーニングで筋力アップを図り、小柄な選手も長打を狙う。
「青木先生はボールを遠くに飛ばす技術も理論的に教えてくれたので、野球が面白くなったし、自分のポテンシャルはもう少し上にあるかもと感じたんです。しかも僕は期待されていたようで、特に熱心に指導してもらえました。例えばフリーバッティング練習は、15分交代で5班で回すんですが、僕だけ75分全部打ったことがあります。僕もみんなも『え? おかしくないですか?』という顔をするんですが、『いいから宮崎は打て』と先生は言う。ものすごい不公平ですけど、あまりにもすがすがしい贔屓ぶりに、チームの他のメンバーは笑ってましたよ」
開成高校硬式野球部が野球部らしい活動をできる機会は、他の部活動との兼ね合いで限られており、木曜と土曜の放課後に、隔週でグラウンドに入るのみ。その週1回の全体練習と日曜の練習試合以外は、すべて自主練だ。
全体練習では、一般的な高校野球部のように白球は追わない。打撃重視の方針、また守備は正しいキャッチボールやトスバッティングの際に身につけるという方針ゆえに守備に特化した練習はほとんどないのである。ごくたまに内野ノックを実施するが、外野ノックはゼロだったと宮崎は言う。開成野球部は打撃最優先の練習で、打ち勝つ野球に徹しているのだ。その独特な戦略と指導は、高橋秀実著『「弱くても勝てます」開成高校野球部のセオリー』(新潮社)として書籍化されたほどである。
「宮崎が3人いたら甲子園に行けるんじゃないか」
そんなチームの指導者にとって、もともと守備上手な部員はのどから手が出るほどほしい存在だろう。宮崎は1年生の段階で、スライディングキャッチを当たり前にこなす技術を持っており、守りについて青木が教えることはすでになかったという。青木が証言する。