炎の一筆入魂BACK NUMBER
菊池涼介の守備を作る「脱力と無音」。
ヒーローは“飛んで”やってくる。
posted2016/05/29 11:00
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
NIKKAN SPORTS
子どもたちのヒーローは、飛んでやってくる。広島投手陣のヒーローもまた、飛んでやってくる。
一二塁間へ、二遊間へ、抜けそうな当たりを、まさに飛んで止めるのが菊池涼介という名のヒーロー。広島ファンの子どもだけではない、広島投手陣のヒーローでもある。誰もが抜けたと思った打球を何度も止め、そしてアウトにしてきた。
快音とともに対戦相手のファンの歓声が上がる。だが、菊池の耳には、その声は入ってこない。「打者が打つ瞬間から何も聞こえないんです」と、音のない世界に1人いる。
守備のとき、菊池は「脱力状態」にあるという。ほぼ直立状態で構える。決して低くはない。投手の投球モーションと同時に、定位置から1歩、2歩と動き始める。配球だけでなく、打者の癖や傾向、その日の状態、打席でのスイング軌道などさまざまな情報から判断する。
「無でやっているときに、ひらめくことがある。第六感です。(ポジショニングは)球種やコースもありますけど、感性が一番。過去の対戦の記憶などがある程度頭に入っている」
体と目で感じてきたものが、頭と胸に刻まれている。研ぎ澄まされた第六感が驚愕のプレーを生み出している。
スカウト「守備がもろく、評価は分かれていた」
予測する能力に加え、反応も抜群に速い。一気にトップスピードに乗り、ダイビングしてもそのスピードが落ちない。「捕れそうにない打球には飛ばない」というポリシーを持つ男のダイビングは、相手の安打を二ゴロに変える合図でもある。
プロに見出された中京学院大時代は、まだ粗さがあった。担当スカウトの松本奉文は、こう回想する。
「守備にもろさがあった。エラーをしたり、派手さが目立った。正直スカウトの中でも評価が分かれていたように思う」