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“横綱相撲”の呪縛を解かれた白鵬。
新たな一面を引き出した「西の風景」。 

text by

阿部珠樹

阿部珠樹Tamaki Abe

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photograph byJMPA

posted2013/03/20 08:01

“横綱相撲”の呪縛を解かれた白鵬。新たな一面を引き出した「西の風景」。<Number Web> photograph by JMPA

大相撲春場所、西の横綱・白鵬は10日目を終えてただ一人全勝。一方、東の横綱・日馬富士は3敗を喫し、優勝争いからは大きく後退している。

 風呂に入るとき、頭を置く場所をいつもと反対にしてみる。狭い風呂場の様子が違って見えて驚く。ちょっと得した気分になる。駅に行く道順を変えてみる。風景が新鮮で、きれいな人とすれ違いそうな気がする。

 白鵬は春場所で西の横綱として土俵に上がった。ずっと東の正横綱だったから、西から土俵に上がるのは2009年の九州場所以来である。テレビでいえば左から右に変わっただけなので、そんなに違いはないように見える。

 だが、西から見る土俵の風景は3年余りも見慣れた風景とはだいぶ違っているのではないか。たとえば、行司はそれまでかならず自分の左前方に位置していたのに、今度は右前方の行司を見ながら仕切ることになる。不思議な感覚ではないだろうか。

 去年の九州場所から日馬富士が横綱に昇進して、横綱はふたりになった。それまで3年近く結びの相撲は自分が取ることになっていたのが、1日おきになった。土俵入りの順番も1日ごとに変わる。これも大きな変化だった。加えて今場所の西横綱。支度部屋からして反対なので、そこの風景もやはり違って見えるだろう。

見慣れぬ「西の風景」にリズムを乱されたが……。

 白鵬は几帳面な性格で、場所入りから取組みを終えて風呂に入り、髷を直して帰るまでの手順がきちんと決まっているそうだ。おそらく風呂や床山の時間もほぼ一定なのだろう。イチローが打席に入るとき、いつも同じ動作をしないと気がすまないように見えるが、白鵬にも似たようなところがある。というより、優れた選手はみな、一定のリズム、パターンを持っているといえるかもしれない。

 ところが、去年の終わりから、その黄金パターンにひびが入り、春場所では見える風景まで変わってしまった。

 そのせいだろう。初日はドタバタした取り口になり、あわや黒星という危なっかしいスタートになった。

 最近は、序盤がよくても、終盤に崩れる場所が増えていたが、初日からこれでは思いやられる。そう思って見ていたら、徐々に取り口が落ち着いてきた。

 全盛期の力強さが戻ったというのではない。安定はしているが、その中に、これまでなかったような軽さ、自由さがにじんでいるのだ。

【次ページ】 ひとり横綱時代には見られなかった溌剌とした取り口。

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