野ボール横丁BACK NUMBER
菊池雄星に、自由に夢を追わせたい!
常識が通用しない時代遅れの野球界。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2009/10/05 12:10
10月5日夕方、花巻東の菊池雄星が、高校で会見を開く。
国内球団か、メジャーか。
現段階でどこまで言及するかは不明だが、9月8日にあるスポーツ紙が菊池が本気でメジャー行きを目指しているという記事を打ってから、周囲への影響を考慮し、菊池は進路に関しては一切口をつぐんでいた。
どちらに進むことになるにせよ、ひとつ、懸念がある。
メジャー志望を口にした場合、またしてもどこかに「反逆児」のようなニュアンスを込めた見方をする者が出てくるのではないかということだ。
やれ日本の慣例をこわしただの、やれ大金になびいただの、と。
芸術、学問、料理……多くのジャンルで海外挑戦は非難されない。
本当に不思議だ。
野球の本場、アメリカでプレーすることを望むのがそんなに悪いことなのだろうか。
その道を追求してきた人間が、よりレベルの高い舞台でプレーすることを望むのは本能だ。
誰にも制御することはできない。
芸術の世界でも、料理の世界でも、学問の世界でも、腕を磨こうと海を渡ったとして、その挑戦を賞賛されることはあっても、非難されることなどまずないだろう。
サッカーやバスケット、バレーボールなど、他のメジャースポーツでは、そんなことはない。
でも、野球界だけは例外なのだ。
世間の常識が、野球界だけでは通用しない。
いつごろからなのだろう。
野球界の組織やルールがあまりにも複雑化し過ぎてしまい、夢を描きにくくなってしまったのは。
今の野球界に必要なのは、世間並みの「常識」。
菊池が今回は国内球団を希望したとしても、遅かれ早かれ、高校球界のスターがそのままメジャー球団と契約するというケースが現実になる日がくる。
それに備え、急ぐべきなのは、流出を規制するルールではない。
もちろん、推奨する必要も、ことさらに応援する必要もない。なんのことはない。たとえ流出することになっても、当たり前に送り出すことのできる「常識」を野球界にも植えつけることだ。そして、その物差しではかった適正なルール改正を行うことだろう。
日本のプロ野球をメジャーに負けない魅力のある組織にするためにも、それが遠いようで、いちばんの近道な気がする。
松坂クラスの菊池の投球を、メジャーで見たいのは当然だ。
それにしても先日の新潟国体を観戦し、改めて思った。
準々決勝、最終回だけマウンドに登った菊池は、この夏の王者、中京大中京の4、5、6番を3者連続三振に切って取った。ウイニングショットはいずれも真っ直ぐだった。
やはりモノが違う。
ここおよそ10年でいえば、松坂大輔(レッドソックス)、ダルビッシュ有(日本ハム)、田中将大(楽天)と同等以上であることは間違いない。
一野球ファンという無責任な立場から言わせてもらうと、あの菊池が早ければ来年、メジャーのマウンドに立っているかもしれないという物語は、考えただけでぞくぞくとするものがある。
実現するかしないかは別として、そんな夢を見ることさえできない野球界にしてはいけない。