バスケット日本代表 世界での戦いBACK NUMBER

ここから日本は強くなる。
 

text by

小尾慶一

小尾慶一Keiichi Obi

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2006/09/07 14:38

ここから日本は強くなる。<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

 日本代表の夏は終わった。最高の形でないにせよ、予想以上の成果を残して。

 日本を応援する者にとっては、ジェットコースターのようにスリリングな毎日だったに違いない。グループラウンドの初戦は、ダーク・ノヴィツキー率いるドイツと対戦。3Q終盤には19点もの大差をつけられたが、その後、得意の守備で欧州予選2位のドイツを猛追。竹内公輔のダンクなどで、一時は8点差に迫った。最終的に70―81で敗れたものの、強豪相手に健闘。良い形で大会に入ることができた。

 ところが、希望を胸に臨んだアンゴラ戦では、62―87と完敗。身体能力を生かしたドライブやリバウンド、組織的な守備を前に、攻守に圧倒されてしまう。

 「今日の試合で、すべてが決まったわけではない」とジェリコ・パブリセビッチ日本代表ヘッドコーチは言い残したが、アンゴラに勝利することがグループラウンド突破の条件と考えられていただけに、周囲の失望は大きかった。

 しかし、パナマ戦の結果が状況を一変させる。世界ランクは日本より下だが、パナマにはルーベン・ダグラスやジェイム・ジョレーダのように、欧米の名門チームで活躍した選手が多い。戦力だけを見れば準強豪国クラスの力はあり、日本にとっては格上の相手であった。そのパナマに、日本は78-61で快勝したのだ。

 パナマが終盤に集中力を切らせていたことは間違いない。第2Qだけで10得点をあげた桜井良太に象徴されるように、チームに勢いがあったことも確かだ。だが、それは、相手の気持ちが折れるまで攻め続け、自らの勢いを途切れさせなかった結果である。

 「うちの我慢勝ちという点もあります」とベテランPGの節政は分析する。「パナマは、気持ちの切り替えが遅く、諦めてしまう時間帯もある。それがわかっていたから、こちらは逆に、勝っていても負けていても、絶対に気持ちを切らさないでいこうと話していました」

 グループラウンドでの勝利は、1963年以来の快挙。翌日の試合でニュージーランド(NZ)に勝てば、日本バスケット史上初めて、ファイナルラウンドに進むことになる。

 運命のNZ戦は、今大会で、最も熱く、最も悲痛なゲームとなった。

 日本は序盤から得意の速い展開に持ち込む。桜井や網野友雄の活躍で、前回大会4位のNZを相手に前半を38-20で折り返す。18点の大量リードである。しかしそのことが逆に、日本のリズムを崩していった。

 後半、守備のプレッシャーを強めるNZに対して、日本は不思議なほどミスを重ねる。点差は徐々に縮まっていき、試合時間残り1分24秒には、ペロ・キャメロンの3ポイントで、ついに57-57の同点。残り31秒には、カーク・ペニーの逆転3ポイントが決まり、57―60と3点差。若手が多く、大舞台での経験が浅い日本には、土壇場で勝負をひっくり返す力はなかった。

 「前半で10点以上差が開いて、自分も含めて、もしかしたら勝てるんじゃないか、という思いが頭をよぎった」と36歳のベテランシューター、折茂武彦は言う。「後半に入って、ああいうふうに追いつかれて、そのプレッシャーとともに、人任せのプレーが増え、自滅してしまった」

 翌日のパナマ―NZ戦の結果次第で、得失点差によるファイナルラウンド進出もあり得た。だがパナマの敗北で、その夢も消えた。

 最後のスペイン戦は、55-104と大差がついた。スペインの流れるような攻撃・変幻自在の守備に、日本はほとんど手も足も出なかった。だが、これを屈辱と考える必要はないだろう。パウ・ガソルをはじめ、スペインチームは、NBAプレイヤー・NBA選手候補で構成され、今大会は、無敗のまま優勝したチームだからである。

 正直な話、ぼくはもう少し点差が開くと考えていた。そしてもうひとつ正直に言わせてもらうと、日本はグループラウンドで1勝もできないのでは、と思っていた。それだけの差が、世界との間にあったのだ。

 ジェリコが日本にきてから、今年で4年。2年目から若手中心のチームに切り替え、フィジカル面を中心に徹底的にしごいた。その中から、桜井や竹内兄弟、川村卓也のような若手が台頭してきた。当たり前のことだが、A代表を数年鍛えただけでは、世界には手が届かない。ジェリコ・ジャパンは、確かに目標のベスト16には到達できなかったが、世界で闘える若手を短期間で育てることができただけで、この4年間の意味はある。

 来年、北京五輪の予選がここ日本で開催される。代表の新ヘッドコーチには、JBLアイシンの鈴木貴美一が就任することがほぼ決定。新たな指揮官、新たな体制で、日本代表は再スタートを切ることになった。それがどんな形をとるにせよ、本大会を戦い抜いたメンバーの経験は受け継いでほしい。各時代の代表チームがバトンを受け渡すことで、日本のバスケットは強くなる。

#北京五輪
#オリンピック・パラリンピック

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