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「お買い得48億円でサラー獲得」「売却益150億円超を最強DF・GKに再投資」“ボロ儲け”リバプール補強戦略ウラ側…日本遠征で衝撃の16歳怪童も
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ジェームズ・ティペットJames Tippett
photograph byKiichi Matsumoto
posted2025/08/03 17:02
世界最強FWのサラー。彼を“お買い得な移籍金”で獲得したリバプールの補強戦略とは
サラーは移籍初年度にリーグ戦で32ゴールをもたらし、自らの獲得が正解だったことをアピールする。ちなみに、これはプレミアリーグが1シーズン全38節になってから最多の得点記録だった。
かくしてサラーは、FSGのもとで復活を遂げたリバプールの象徴的な存在となる。だがグラハムが実現させた最も重要な選手補強は、おそらく数年前に行われたものだったと言えるだろう。
“150億円超”売却益をファンダイクらに再投資
グラハムが最初に手がけた仕事の一つは、インテル・ミラノでプレーしていたフォワード、フィリペ・コウチーニョの調査をすることだった。グラハムはこの若き左ウイングを高く評価したため、リバプールは最終的に1300万ユーロ(※約17億5000万円)で契約を結ぶ。
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コウチーニョはその後数年間、プレーを通してクラブに貢献したが、2018年にバルセロナに移籍した際には置き土産も残している。リバプールは、5年前に彼を獲得した金額よりも1億2200万ユーロも高い1億3500万ユーロ(※当時のレートで約175億円)で売却することに成功したのである。こうして得られた資金は、グラハムの分析モデルでリストアップされた、新たな選手の獲得に再投資された。その中には、アリソン・ベッカー、フィルジル・ファンダイク、ファビーニョといった、リバプールにチャンピオンズリーグとプレミアリーグで栄光をもたらすことになる、後の中心選手も含まれていた。
顔役クロップによってリサーチ部門は周囲の目を逃れた
クロップが名門復活のキーマンになったのは誰の目にも明らかだ。しかし彼の監督起用は、サクセスストーリーの半分にすぎない。実際にはヘンリーが導入した分析チームが、強化の戦略と方向性を決定づけたからだ。彼らは舞台裏でxGデータをはじめとする高度な指標を駆使し、意思決定に影響を及ぼしていたが、黒子に徹することに満足していた。クロップがチームの「顔役」を務めれば、リサーチ部門は周囲の目を逃れられるからだ。
FSGが組織を再編成し、グラハムやエドワーズを起用したことでリバプールは見事に復活を遂げた。しかもマンチェスター・シティやマンチェスター・ユナイテッド、チェルシーといった名門相手に、はるかに少ない予算で競い合うことを可能にした。
FSG配下のリバプールが採ったアプローチは、アイザイア・バーリンに言わせれば「狐的」となるだろう。彼らは移籍委員会を設立しつつ、サッカー以外の分野で培われてきたノウハウも積極的に活用しているからだ。分析チームを率いるのは物理学の博士号を持つグラハム。その周囲にはエドワーズ以外にも、チェスの元ジュニアチャンピオン、宇宙物理学者、素粒子のヒッグス粒子の存在証明に貢献した研究組織、CERNの元職員さえ含まれている。ヘンリー自身、もともとは大豆の先物取り引きを予測するアルゴリズムを開発し、富を築き上げた人物だった。
リバプールには、こうしたDNAが組み込まれている。名門復活は感情に左右されがちな個人ではなく、冷徹で揺るぎないデータに決定権を委ねることで実現されたのである。〈つづく〉

