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低迷リバプールの救世主は「名門ケンブリッジ大で博士号」「ノートPCにかじりつく連中」だった…看板選手に「期待外れだ」ホンネで告げた大改革
posted2025/08/03 17:01
アジアツアーで日本を訪れたリバプール。現代最強クラブの“映像に映らない”改革とは
text by

ジェームズ・ティペットJames Tippett
photograph by
Kiichi Matsumoto
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ケンブリッジ大学卒のサッカーアナリスト
イアン・グラハムは、子供の頃からリバプールを応援してきた。彼はアンフィールドから約160マイル近く離れた、ウェールズのカーディフ郊外で育ったが、幼少期は1970年代から1980年代にかけての黄金時代と重なる。しかもウェールズ出身の名ストライカー、リバプールで活躍したイアン・ラッシュにあこがれていた少年の1人だった。
グラハムは後にケンブリッジ大学で博士号を取得。2年間、ポスドクと呼ばれる研究職に就くが、その途中で自分は科学者になりたいわけではないと気付いたという。彼の専門分野である高分子物理学では過去数十年前にほとんどの発見がなされており、新たに開拓すべき領域はあまり残っていなかったからだ。
そんなある日、彼はサッカーのデータ分析を手がけるスタートアップ企業の求人募集を偶然目にする。就職を果たしたグラハムは、マイケル・ルイスの『マネーボール』を即座に購入。2008年から2012年までの4年間、トッテナムでコンサルタントを務めるようになった。ただし、より正確には「コンサルタント業務らしきもの」を提供したと言うべきかもしれない。その間にクラブを率いた監督たちは、アドバイスにはほとんど関心を示さなかったからである。
「ノートPCにかじりつく連中」と疎んじられたが
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そもそもサッカーのデータ分析を担当するアナリストたちは、クラブの経営陣からの関心や支持を得るのに苦労してきた。やっとの思いでチーム内の「聖域」に潜り込んでも実際には隅に追いやられ、監督に無視されてしまう話は枚挙に暇がない。今日のサッカー界では、ほとんどのクラブが分析部門を設けている。だが分析部門がいさえすればいいということで、特段注意を払わなくなるケースも珍しくない。
FSGの発想は違っていた。
