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「クロップの手腕に問題? ノーだ」遠藤航所属リバプールが再建を託した“不運すぎる名将”…「彼らのお陰で僕はここにいる」と感謝した日
posted2025/08/03 17:00
遠藤航を労うクロップ監督。現代最強を誇るリバプールはどのようにして低迷期から再建したか
text by

ジェームズ・ティペットJames Tippett
photograph by
Chris Brunskill/Fantasista,Getty Images
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クロップ就任の道を開いたイアン・グラハム
2015年11月、ユルゲン・クロップがリバプールの監督に就任してまだ1か月目のこと、チームのリサーチ部門でディレクターを務めるイアン・グラハムが監督室を訪ねてきた。彼はプリントした資料を腕に抱えていた。
初めて対面するクロップに対して、自分の分析がどのようなメリットをもたらすかを説明し、データ分析を取り入れるよう説得したいと考えていたからである。
グラハムがテーブルに広げた資料には、クロップが前シーズン、ボルシア・ドルトムントを率いてマインツと対戦した際のデータが記されていた。ドルトムントは格下のマインツを圧倒していたが、結局、0-2でよもやの敗戦を喫している。グラハムが話し始めるや否や、クロップの顔がぱっと輝いた。
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「ああ、あの試合を見たんだね。僕たちは相手を圧倒したんだ。なのにクレイジーな結果になったよ。君も知ってのとおりさ!」
グラハムは実際には試合を見ていなかったが、リバプールがロジャーズの後任を探していた際に、各監督候補を分析していた。そこで得られたxG(ゴール期待値)のデータから、ドルトムントが実際の順位よりもはるかに良いパフォーマンスを発揮していることを認識していたのである。
クロップが“運のなさ”を嘆き続けたシーズン
この試合ではドルトムントが19本、マインツは10本のシュートを放っている。またドルトムントは敵のペナルティエリア内にボールを36回も運んだのに対して、マインツはわずか17回にとどまっていた。
ところがドルトムントは66分にマインツの岡崎慎司に先制ゴールを許すと、70分にPKを外し、4分後にはオウンゴールを喫してしまう。
試合全体ではドルトムントは2.13xGのシュートチャンスを作り出したのに対し、マインツは0.93xGに終わるなど、あらゆる指標で相手を凌駕していた。最終的なスコアを除けばである。
続いてグラハムは、その1か月後に行われたハノーファー戦を詳細に分析したプリントを見せた。この試合では、クロップのチームがさらに優位に立っていた。シュート数は18対7、ペナルティエリア内にボールを共有した回数は55対13、xGは1.69と0.72だった。ところがクロップはまたもや運のなさを嘆く羽目になっている。
クロップは、グラハムがハノーファー戦もチェックしていたことに驚きを隠そうとしなかった。だがグラハムは、ドルトムントの試合自体を生でも録画ビデオでも見ていなかった。

