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「元アナウンサーと婚約した」誤報も…長嶋茂雄&王貞治「婚約スクープ合戦」“ネットのない時代”のやりすぎ感「新聞記者はここまでやった」
text by
近藤正高Masataka Kondo
photograph byKYODO
posted2024/03/09 11:02
1965年1月26日、結婚式を終え、記者団の質問に答える長嶋茂雄と亜希子さん(東京千代田区紀尾井町のホテルニューオータニ)
王自身としてもちょうど3年続けてタイトルを取り、何とかプロでやっていけそうだという手応えを得たタイミングであり、彼のなかでは彼女の存在が大きくなっていく。しかし、それを外に漏らすことは一切なかった。そこには父親から常日頃より言われていた「100人のうち99人喜んでも、1人が泣くなら、それはやってはいけないこと」との教えがあった。
親しい記者に言えば、たしかにスクープという形でお手柄を献上することができるだろう。しかし、そうなれば必ずほかの誰かが泣く。そのことを王は、長嶋の婚約をめぐるスクープ合戦を見ていて痛感したという。そこで結婚が正式に決まるまでは沈黙を通し、発表は各社平等でスクープはなしと固く決めたのだった。こうした彼のマスコミへの姿勢は、その後も、現役引退、監督就任・退任など人生の節目節目で貫かれることになる。
“視聴率45%”の伝説
王は婚約を自ら決めたとおり、1966年1月6日に共同記者会見で発表した。その夜にはフジテレビの『スター千一夜』にも二人そろって出演している。同番組は1959年3月の同局開局とともにスタートし、毎回、旬のスターが登場してはその素顔が紹介され、人気を博した。
ちなみに22年にわたる『スター千一夜』の歴史において最高視聴率を記録したのは、1966年12月1日放送の回で、この日挙式した王夫妻が出演した。同番組の歴代視聴率ランキングの2位以下は調査会社によってそれぞれラインナップが変わるが、この回だけはどこも断トツの45%台に達し、当時の王に対する世間の注目度の高さがうかがえる。
『スター千一夜』は婚約・結婚したばかりのスターが出演するのがひとつの目玉となっていた。長嶋も婚約会見の翌日、挙式当日に夫人とそろって出演している。1965年5月31日には、この日挙式した日本女子バレーボールチーム(ニチボー貝塚)元主将の河西昌枝が同番組に出演している。
「東洋の魔女」と称されたニチボー貝塚は、1962年の世界選手権で強豪のソ連を破って優勝したあと、河西をはじめ大半の選手が引退するはずであった。しかし、2年後の東京五輪でバレーボールが正式種目に採用されたため、さらに金メダルを目指して現役を続行した。見事目標を達成すると、河西は時の佐藤栄作首相の仲立ちで自衛官と見合いをし、婚約からわずか1カ月で挙式したのだった。女子アスリートの結婚がニュースとなった走りといえる。
<続く>