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「私は答えられない」投票先に口を閉ざすバロンドール主催者が、受賞を熱望するムバッペをべた褒めする理由とは?「彼は卓越している」
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byGetty Images
posted2022/10/15 17:04
PSG順調にゴールを重ねるムバッペ。今年クラブと3年契約を結んだが、退団や移籍に関する報道が絶えない
――これまで投票結果に不満を訴える選手はいました。アルフレッド・ディステファノは、1958年の結果に不満を抱いていましたし(註:レイモン・コパがフランス人でなかったら、1958年も自分が受賞していたと、バロンドール50周年のセレモニーの際に繰り返し語った)、エウゼビオもポルトガルの投票委員が自分を1位にしていたら1966年は自分が獲るハズだったと述べています。
ミシェル・プラティニも、ジャック・フェラン(当時FF誌編集長)が自分を1位にしなかったから1977年に受賞できなかったと恨んでいます(註:エウゼビオとプラティニに関しては誤解であり、実際には1位にされても受賞には至らなかった)。ムバッペの言葉は、そうしたコメントとは一線を画するものです。
PF ムバッペは、バロンドールに対してもFF誌に対しても恨みを抱いてはいない。彼が抱いているのは自分自身に対する怒りであるように思う。それはバロンドールを獲得するに足るパフォーマンスを自分が発揮していないことへの怒りだ。彼はバロンドールの規則をよく理解しているし、歴代受賞者についてもよくわかっている。自分が獲得できないのはちょっとした何かが足りないということも。私の印象では、彼はバロンドールに対して怒っているのではなく、その逆であるように思う。
ムバッペの自負
――それだけ彼は知的であるということですか?
PF その通りで、彼は他の選手とは違う。ピッチ上の動きも速いが頭の回転はさらに速い。バロンドールの獲得を目指すために、何をすればいいのかを完璧に理解している。つまりまずピッチ上で最大限の印象を残すことだ。今年はチャンピオンズリーグでラウンド16に進出し悪くはなかった。とりわけ第1戦のパフォーマンスは印象的だった。第2戦はさほどでもなかったが。しかしその後も彼はとても実り多いシーズンを送った。PSGで彼が示したのは高いレベルでの安定したパフォーマンスだった。
――同じインタビューで彼は、もし自分が投票するとしたら本命であるカリム・ベンゼマとサディオ・マネ、彼自身に票を投じると述べていますが、あなたも彼の意見に賛成ですか?
PF その質問には私は答えられない。投票者のひとりとして自分が誰に入れたかを話せないし、私は主催する側の人間でもあるからだ。
ムバッペは正直な気持ちをここでも語っている。他の選手だったら4~5人の候補者を挙げても、政治的な配慮からそこに自分の名前を含めることはない。だが彼は、自分がトップ3に入るに値するシーズンを送ったことを確信していて、決して傲慢なのではなく真摯な正直さを見せている。その点で彼を批判することはできない。
――その通りだと思います。メルシー、パスカル。