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「私は答えられない」投票先に口を閉ざすバロンドール主催者が、受賞を熱望するムバッペをべた褒めする理由とは?「彼は卓越している」
posted2022/10/15 17:04
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph by
Getty Images
パスカル・フェレ『フランス・フットボール』誌(以下FF誌)編集長インタビューの第3回(最終回)である。
バロンドール候補者30人が発表されたFF誌8月13日発売号には、フェレによるキリアン・ムバッペのロングインタビューも同時に掲載されている。内容は衝撃的だった。バロンドールの有力候補者が、投票が始まる前に受賞への思い・願いをこれだけストレートに公にするのは筆者の知る限り初めてであったからだ。強い思いを隠さなかったクリスティアーノ・ロナウドですら、ここまで具体的に本音を語ってはいない。
他方で最近のムバッペは、ピッチ内外でのエゴイスティックともいえる言動が目立つ。最後のワールドカップに賭ける思いが強いリオネル・メッシとネイマールが調子を上げ、クラブでのパフォーマンスでも今季は彼をしばしば凌駕するようになったことが、バロンドールへの思いが強いムバッペの気持ちをいら立たせているのか。筆者の友人であるレキップ紙記者は、「ムバッペの言動はすべて計算しつくされている。少年時代からずっとそうだった」と言うが……。
ただ、いずれにせよフェレに吐露しているのは、ムバッペの忌憚なき思いであるのは間違いない。インタビューそのものは掲載できないが、選手にとってのバロンドールの本音と建前がどんなものかを、ムバッペはフェレに伝えている。(全3回の3回目/#1、#2へ)
ムバッペの野心
――FF誌であなたのムバッペ・インタビューを読みました。もの凄く面白かったです。彼のような有力候補が、バロンドールへの野心を正直に表明したのは初めてではないでしょうか?
パスカル・フェレ(以下PF) 君の言うことが正しいと思うのは、彼が吐露したのは傲慢さがまったくない本物の気持ちだったからだ。彼はバロンドールが夢に見ていたトロフィーであることを正直に告白している。その気持ちを語ることに彼は何の躊躇いも見せてはいない。彼にとってはシーズンの最大の目標のひとつだ。正直な気持ちを忌憚なく吐露している。他の候補者たちのプレスやチームメイトを前にしての小さな嘘——優等生的なコメントにも触れている。その点で彼は、心からバロンドールが欲しいという自分の気持ちをまったく隠そうとしていない。もちろん彼には数年のうちに少なくとも1度は受賞できるだけの能力がある。
――彼は「バロンドールは選手が年に一度だけ子供に返る唯一の機会だ」と語っています。
PF クリスマスを待ち焦がれる子供のように、サンタクロースからプレゼントがもらえるかどうか心をときめかせる。選手にとって最大無二の個人表彰であることを彼はよく理解している。コレクティブなスポーツでありながら、シーズンを通して獲得することを夢見ている。そしてシーズンでただ一度の個人が喜びを爆発させる瞬間だ。自分がNo.1で誰よりも優れていることを、憚りなく誇ることができる。そうであるからこそ、彼らはバロンドールに執着しているのだろう。