濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
女子MMAに新女王誕生!
その圧倒的実力とドラマ性を見よ。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySports Graphic Number
posted2011/01/06 10:30
浜崎朱加は、藤井惠の愛弟子でありファイトスタイルも似ていることから「フジメグ2世」「秒殺の女王2世」などの愛称で親しまれている
12月17日の女子MMAイベント『JEWELS』後楽園ホール大会では、同団体の初代女王(52kg級)を決めるトーナメントの準決勝、決勝が行なわれた。初の王座制定にして、最も層の厚い52kg級。単にチャンピオンが決定するというだけでなく、女子MMAというジャンルのレベルや魅力、あるいは地盤の確かさも問われる重要な闘いである。
結論から先に書いてしまうと、優勝を果たしたのは2009年にデビューしたばかりの浜崎朱加だった。浜崎は7月の一回戦でイ・ハンソルにアームロックで秒殺勝利を収めると、後楽園大会では準決勝で能村さくら、決勝で優勝候補のハム・ソヒに勝利。この決勝でMMA4戦目だから、とてつもない才能の出現である。
浜崎のバックボーンは柔道。大学、実業団まで経験しているから、そもそもアスリートとしての能力が高いのは確かだ。グラップリング(打撃なし)の試合ですべて一本勝ちしていることからも、テイクダウンと寝技が得意な“組み技師”であることは間違いない。ただ、彼女のポテンシャルはそこにはとどまらなかった。
勝利を引き寄せた無意識のサウスポー。
柔道出身者対決である準決勝は、パンチの連打でペースを奪っての判定勝ちだった。決勝戦でも、テイクダウン・ディフェンスに優れたストライカーであるハム・ソヒに真っ向から打撃で対抗。しっかりとダメージを与えたのちに寝技に持ち込んでいる。判定とはいえ、あらゆる局面で浜崎が上回っていたのだ。師匠である藤井惠も「練習では打撃をもらうと集中力が切れるクセがあるんですが、今日は最後まで集中して闘えていましたね」と語っている。
決勝戦、浜崎を優位に導いたのはサウスポースタイルの前腕から放たれるジャブと右フックだった。だが、彼女は本来、右ききの選手。試合開始時には左足を前にするオーソドックスで構えている。スイッチした理由を尋ねると「自然にそうなってました」と浜崎。作戦ではなかったらしい。
ワンデイ・トーナメントでの実力者との連戦で“根っこ”が姿を現したということなのだろう。打撃系格闘技では、右構えは左足を前に出すが、柔道などの組み技系は右足が前。トーナメントの最終局面というギリギリの闘いの中で、彼女は意図せず柔道の構えに戻していたのだ。そのことで、きき腕である右のパンチを有効に使えるようになった。打撃系格闘技でいう“コンバーテッド・サウスポー”の戦法を意識せずに使いこなしていたわけだ。観客以上に面食らったのは対戦相手だろう。