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プロ初勝利は伝説の始まりとなるか?
“異能の投手”菊池雄星、東北への夢。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2011/07/04 12:10
初勝利のヒーローインタビューでは決して涙を見せなかった菊池。ウイニングボールは恩師である花巻東高の佐々木洋監督に贈られた
初先発から2戦目までの間に見せた急激な進化。
初先発から2戦目までのおよそ20日間で一気にレベルアップした姿を一軍で見せられたことは、今回の登板がただの話題性だけで終らないであろうことを証明している。
1、2回を三者凡退で好スタートを切り、しっかりゲームも作った。6回途中でマウンドを降りたが、2安打2失点は及第点を与えられる。
もちろんこの1勝だけで、これからの菊池の活躍が約束されたわけではない。
初対戦なので相手打線が菊池の腕の振りに戸惑ってくれたが、研究されれば打ち崩してくるチームもあるだろう。オリックスの正田耕三打撃コーチも「腕を振ってくるピッチャーという印象。でも、特に嫌な球を投げるという感じではない。次は潰せるよ」と次なる戦いでの反撃を公言していたほどだ。
あくまでこの1勝は、昨年1年間、故障などで苦しんだ悪夢を払しょくできただけなのだ。ようやくこれで菊池の今シーズンが始まる……ということに過ぎないのだ。
「胸をはってシーズンを終えた時……沿岸で野球教室をやりたい」
もちろん、本人にも自覚はある。
「これからがスタートだと思います。昨年1年間投げられなかった分、試合に関して言うと1年目みたいなものなので、まだまだ学ぶべき部分は多い。今日も最後はバテて、握力も残っていなかった。球速を見たら、135キロしか出ていなくて、ちょっとショックだった。コーチからも、しっかり鍛えてこいと言われたので、体力面も含めて、ファームでしっかり取り組んでいきたい」
菊池には、果たしたい夢があるという。
それは地元でもある被災地・東北に馳せた夢である。
「震災があった時、すぐにでも被災地に行こうとしたんですね、荷物をまとめて、新幹線に乗るくらいのつもりで。すると地元の仲間から、『今、岩手は雄星の活躍で盛り上がっている。だから、お前は野球をやっとけ』っていわれたんです。震災のあったころはちょうど、オープン戦の時期で、自分は無失点に抑えていたので、情報として伝わっていたんです。それで思ったんです。野球で結果を出して、胸をはってシーズンを終えた時……沿岸で野球教室をやりたい。それが今の夢です」
どこまでも純真な男・菊池のプロ野球人生が、ようやく幕を開けた。