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「飛ばないボール」が野球を変えた。 

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海老沢泰久

海老沢泰久Yasuhisa Ebisawa

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photograph byHideki Sugiyama

posted2005/11/18 00:00

「飛ばないボール」が野球を変えた。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

 今年のプロ野球はマリーンズの31年ぶりの優勝で幕を閉じ、ポストシーズンはマリーンズの話題一色だったが、振り返れば、ミズノが「飛ぶボール」の供給をやめ、全球団の使用球が「低反発ボール」に統一された年でもあった。開幕後はすっかり忘れ去られてしまったが、開幕前はそれが一番の話題だったのである。

 はたして結果はどうだったのだろう。ぼくも「飛ぶボール」の使用を批判していた者の一員だった手前、去年と比較してすこし検証してみたい。

 セ・リーグは、ジャイアンツとベイスターズ以外の4球団は去年も「低反発ボール」を使用していたので、全体の変化は見えにくいが、ジャイアンツとベイスターズのホームラン数は劇的に減少した。ジャイアンツは去年の259本から186本、ベイスターズは194本から143本に減っている。チーム打率も、ベイスターズは去年2割7分9厘でリーグトップだったのだが、今年は2割6分5厘に落ち、ジャイアンツは2割7分5厘から2割6分に落ちた。しかし、ペナントレースの順位は、ジャイアンツは3位から5位に落ちたが、ベイスターズは最下位から3位に上昇した。

 パ・リーグは、マリーンズ以外の5球団が「飛ぶボール」を使っていて、それが全部「低反発ボール」に変わったので、全体の変化が見やすい。

 当然のことながら、全体のホームラン数は920本から829本に減少し、全体の平均打率も2割7分8厘から2割6分7厘に落ちた。

 しかし、変化はそれだけではなかった。ピッチャーの投球も変わったのである。

 「去年は打ち取ったつもりの打球がホームランになっていたが、今年はそれがない。非力な打者にはどんどん攻めていけるし、楽ですよ」

 シーズン序盤にそういっていたのはベイスターズの三浦大輔だったが、多くのピッチャーがそうしたのである。

 それは全体の四球総数によくあらわれている。去年の2857個から2315個へと激減したのである。ホームランを怖れて、逃げたり、必要以上に微妙なコースに投げなくてもよくなったことの証だろう。死球の数が381個から333個に減っていることにも同じことがいえる。それほどきわどく内角に投げなくても打ち取れるとピッチャーたちは考えられるようになったのである。

 むろん、平均防御率は去年の4.68から4.06へと飛躍的に上昇し、去年は松坂大輔1人しかいなかった個人防御率2点台のピッチャーが6人も生まれた。長年にわたってホームランを怖れてビクビクしながら投げていたピッチャーたちが息を吹き返したのである。

 こういう効果があらわれたとは予想外だが、つまらないホームランが減ったことよりも大きな収穫だったかもしれない。ピッチャーがバッターを怖れてストライクを投げないことほど野球の興を削ぐことはないからだ。

 当然のことながら、勇気を取り戻したピッチャーたちが対戦した打者の総人数も3万1665人から3万1231人へと減少し、その分パ・リーグの平均試合時間は3時間29分から3時間20分に短縮された。

 「低反発ボール」への統一は、いいことばかりを生んだといっていい。

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