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奇妙な監督たち 

text by

海老沢泰久

海老沢泰久Yasuhisa Ebisawa

PROFILE

posted2008/09/22 00:00

 オリンピックの前は、「星野ジャパン、星野ジャパン」と、あんなに持ち上げられていたのに、終わったいまは、星野監督の影はすっかり薄くなってしまった。テレビのCMにも出ずっぱりのように出ていたのに、それも見ることがない。手のひらを返すとはこういうことをいうのだろう。

 しかし、星野監督がオリンピックで勝てないだろうということは、当初からある程度予測できたのである。なぜなら、星野監督は、監督としての力量がもっとも試される短期決戦にからきし弱いからだ。

 プロ野球最大の短期決戦は日本シリーズだが、その日本シリーズに3度以上出場した監督は全部で16人いる。その中で1度も勝っていないのは、0勝8敗の西本幸雄監督と、0勝3敗の星野監督の2人しかいないのである。ぼくにかぎらず、そういうことをよく知っている古い野球ファンは、なぜその星野監督が短期決戦のオリンピックの代表監督に選ばれたのか、一様に首をひねったのではあるまいか。

 しかし、もうひとつ大きな見方をすれば、星野監督1人ではなく、マスコミも含めて、日本の野球全体が負けたのだともいえる。日本にも、過去に圧倒的な結果を残した監督は何人もいる。その彼らがどのように評価されてきたかを考えてみればよい。

 いうまでもなく、日本シリーズにもっとも多く出場してもっとも多く勝ったのは、川上哲治監督で11勝0敗だ。森祗晶監督が6勝2敗でそれに次ぐ。しかし、彼らの野球は“管理野球”といわれ、勝てば勝つほど面白くないと批判されてきたのである。3勝1敗の広岡達朗監督なども、その中に含めてもいいかもしれない。そしてその反対の監督たち、現役時代にスターだったという理由だけで監督になり、奇妙な采配をして奇妙な負け方をする奇妙な監督たちが持ち上げられてきた。

 その結果、勝てる監督たちは球界の片隅に追いやられ、そうではない監督たちが幅をきかせてきた。それが日本のプロ野球の歴史なのだから、歴史が負けたのである。

 だが、負けていいこともひとつあった。それは、現役時代にスターだったとか、口がうまいとか、経営者からの受けがいいとか、スポンサーから金が集めやすいとか、そういう野球の本質とは関係のない基準で監督を選ぶと、生きるか死ぬかの戦いでは勝てないということが天下に明らかになったことだ。来年の3月には第2回のワールドベースボールクラシックがあるが、その代表監督選出に際しては、よもやそのような基準は適用されないだろう。

 ちなみに、すぐれた監督の資格とは何か。いまや野球の古典ともいうべき『ドジャースの戦法』には、つぎの5つがしるされている。

・選手とチームとを統率する能力。

・すべての場合に、選手たちにベストをつくさせる能力。

・野球の基本を教える能力。

・ゲームと作戦とに対する十分な知識。

・そのうえに勇気、すなわち自己の信念なり思いつきなりを実行にうつす勇気。

 当然のことながら、野球以外の能力のことなどは、監督に必要な資格としてひとつも取り上げられていない。

広岡達朗
西本幸雄

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