カメラマンが語る:スポーツ写真の魅力とはBACK NUMBER
自分の持っている感覚を写真で表現したい。
text by
福本悠Yu Fukumoto
photograph byKen Morisawa
posted2009/09/10 10:00
そんな彼に何を考えて撮影し、何を伝えたいのかを聞いた。
プールの中でシャッターを切りながらスポーツカメラマン森澤ケンは、自分が現役の水泳選手だった頃に感じていた水の感触を思い出していた。
「現役の頃、調子のいいときはこんにゃくの中を泳いでいるような感じだったんです。ポンっと、跳ね返ってくるような。その中でストロークを伸ばすと身体と水がこすれるような感触があったんです」
競技者として高いレベルにある者だけが感じられる感覚を、言葉で伝えることは難しい。それを表現できたのが写真だった。
「初めて水中写真を撮ったとき、水と人間が絡み合っているところだけが、ちょうどこすったように写真の粒子が粗くなっていたんです。自分の感覚がそのままビジュアルで表現できているのを見て驚きました」
水泳選手の夢を諦めた時、カメラマンになる決意をした森澤。
小学生から水泳を始め、高校時代には静岡県の代表として国体にも出場した。しかし、選手としては限界を感じ、高校卒業と同時に水泳を辞める。水泳選手という夢を諦めたとき、実家が写真館を営んでいた森澤にとって、カメラマンを目指すのはごく自然なことだった。そして、カメラマンとして水泳を撮ろうと決めたことも。
「まだまだ勉強中なので、メジャーな大会を撮影するのは、今回の世界水泳が初めての経験でした。屋外プールということもあって、屋内プールでは撮影できない、陰影や光を使った表現に挑戦しました」
「誰も見たことがないような写真」を、今日も目指す。
競技経験を生かし、選手の気持ちが分かるカメラマンを目指す森澤が撮るのは、競技写真だけではない。選手と一緒にプールに潜り、水中から撮影することも多い。そこまでして撮影をするのは写真を見る人に「驚きを伝えたい」からだ。
「写真って現実を写し取るものじゃないですか。でも、その現実を疑うような不思議な絵を撮りたいといつも思っています。誰も見たことがないような写真。それが撮れると楽しいですね」
ライフワークとして東海大学水泳部を追い続けており、選手の信頼も厚い。現在、写真家であった祖父の業績をたどる「軽井沢時代プロジェクト」を進行中。 http://morisawa-photo.com