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桑田真澄18歳「ボク払います」ポケットから出した“驚きの金額”…「彼女に会いたくて」寮の門限で攻防、巨人レギュラー争いの内情…巨人OBが語る寮生活
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岡野誠Makoto Okano
photograph byKazuhito Yamada
posted2025/02/16 11:04
PL学園から巨人に入団した桑田真澄。写真はプロ2年目の1987年撮影
「駅前に商店があって、野球好きの娘さんがいたんです。結婚もされていて、40歳くらいでしたかね。2~3人でビールやお菓子を1万円以上買うと『送ってあげるわ』って言うんですよ。ウイスキーや焼酎、ビールの箱買いもしました。商売上手でしたよ(笑)」
「好きなもん食えよ」エースの現金払い
ストレスの溜まる寮生の気持ちを見越してか、孤高のエースが大盤振る舞いをしてくれた。86年、皆川睦雄コーチとの対立もあって二軍に降格した西本聖が「何か食べたいものあるか」と聞いてきた。全員が「焼肉を食べたいです」と口を揃えると、西本はタクシーを6台ほど呼び、20人を超える全選手を高級店に連れて行った。
「車内で『さすがやな』とみんなで感心してましたよ。店に着いたら、『好きなもん食えよ』と言ってくれたから、遠慮せずに良いものばっかり注文して(笑)。お会計の額を見たら、30万円を超えていて、凄えなあと。現金で支払われていましたね」
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毎日、ジャイアンツ球場で汗を流す男たちには、束の間でも休息が必要だったのだ。とりわけ、期待されていた藤岡にはあらゆるOBが助言を繰り返した。感謝の念を抱きながらも、頭は混乱を極めた。苦悩を感じ取った末次利光・二軍打撃コーチはこう諭した。
「いろんなことを大先輩が教えてくれるけど、やるのはお前だから。合わない理論を無理に取り入れる必要はない。その人が見ている時だけやるのも、おかしな話だ。嫌だったら嫌と言えばいい」
藤岡は同じ兵庫県出身の大先輩である青田昇に意を決して本音を打ち明けた。
藤岡:僕はバットを寝かすと、なんか力負けしそうな感じがするんです。普通に戻していいですか。
青田:いいよ、いいよ。構わないよ。
阪神で藤井栄治、阪急で長池徳士などの大打者を見出した名伯楽は、人には適性があると理解していた。
「恐る恐る聞くと、あっさり受け入れてくださって。悩んでた自分は何やったんやって思いました。もっと早く言えばよかったって(笑)」
「もう少しで一軍…」肩を襲った“ブチッ”
迷いの消えた3年目の87年、藤岡は開花する。須藤豊二軍監督の期待に応え、イースタン・リーグの打点王を獲得。優勝を決めたヤクルト戦で決勝3ランを放つなど勝負強さを見せ、打率3割1分6厘、11本塁打、52打点と文句なしの成績を残した。それでも、一軍には上がれなかった。
「巨人の層の厚さを感じました。他のチームの選手には『ファームだけでもう1チーム作ってもらえや。ほんと飼い殺しやな』と言われました。他球団に行けばチャンスあるのかなという気持ちも徐々に出てきました」


