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あの野村克也が驚いた「データ通用しない」ある日本人投手…じつは“メジャーも欲しがっていた”山田久志の伝説「美しいアンダースローで284勝」
text by
太田俊明Toshiaki Ota
photograph byKYODO
posted2024/08/25 06:01
「アンダースローで284勝投手」山田久志の伝説とは
「球種は、ストレートとカーブ、シンカーだけ。配球の組み立ての中心はストレートだった。ストレートの走りを基準にしてコンビネーションをがらりと変えてくる。だから、前回の対戦データは通用しない。その日の試合に限っても、前半と後半でまったく違う組み立てをしてくる。つまり山田は感性が優れているのだ。人より多く感じる力があるから、3つの球種のコンビネーションを自在に変え、打者を打ち取ることができた」(「最強のエースは誰か」野村克也 彩図社)
恩師・西本に「速ければ打たれない」と豪語した山田が、不調と山口ショックを乗り越えてシンカーをマスターしたとき、頭脳派の大エースが誕生したのである。
江夏豊と比較…どちらが上か?
では、当企画の現チャンピオン江夏豊(1968年)とのベストシーズン対決である。山田のベストシーズンは、22勝6敗で勝率1位になった1971年になる。1試合あたりの被安打数、奪三振数、WHIPで生涯自己ベストを記録している。(赤字はリーグ最高、太字は生涯自己最高)
【1968年の江夏】登板49、完投26、完封8、勝敗25-12、勝率.676、投球回329.0、被安打200、奪三振401、与四球97、防御率2.13、WHIP0.90
【1971年の山田】登板46、完投16 、完封6、勝敗22-6、勝率.786、投球回270.0、被安打195、奪三振189、与四球64、防御率2.37、WHIP0.96
ほぼすべての項目で江夏が上回っている。山田が勝っているのは、勝率と与四球率のみだ。
当企画で重視する”打者圧倒度”を見ると、1試合当たりの被安打数は、江夏の5.47に対して、山田6.50と江夏がリード。1試合当たりの奪三振数は、江夏の10.97に対して、山田は6.30と、ここはさすがにシーズン奪三振世界記録の江夏が圧倒。防御率、WHIPは僅差ではあるが、これも江夏が勝る。ということで、江夏圧勝で王座防衛とする。
なお、山田の12年連続開幕投手という日本記録は、挫折を経験した75年からスタートしている。速球派から頭脳派に変身して、そこから長く絶対エースとして君臨した。その対応力こそが山田の真骨頂といえるだろう。