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野村克也が絶賛した「完ぺきに近い投手」ダルビッシュ…敵なし状態の11年前、なぜ沢村賞を逃した? 立ちはだかった“もう一人の天才”とは
posted2022/06/17 11:01
text by
太田俊明Toshiaki Ota
photograph by
BUNGEISHUNJU
大投手のベストシーズンの成績を比較して、日本プロ野球史上No.1投手を探る旅。金田正一、田中将大に続く第3回は、あの野村克也氏が「平成最高の投手」と評したダルビッシュ有だ。
2019年4月、テレビ番組の「平成ベストナイン」を選ぶ企画で、野村氏は先発投手部門でダルビッシュを1位に選んだ。
平成の沢村賞受賞者を振り返ると、斎藤雅樹(巨人)にはじまり、野茂英雄(近鉄)、上原浩治(巨人)、松坂大輔(西武)、斉藤和巳(ソフトバンク)、岩隈久志(楽天)、田中将大(楽天)、菅野智之(巨人)といった錚々たるメンバーが並ぶ。その中でも、慧眼の野村氏が1位に選んだダルビッシュは、“史上最高の投手”有力候補といえるだろう。
野村氏は、その著書『最強のエースは誰か?』(彩図社)などでダルビッシュを、「150キロ台後半のストレートを持ちながら、スライダー、カーブ、ツーシーム、カットボール、スプリット、チェンジアップといった七色の変化球を操り、その全てが一級品。ストレート、変化球、どのボールでもストライクが取れる。加えて、野球頭脳も優秀で、試合中に状況に合わせて投球を変えることができる。本格派にして技巧派。過去にこのような投手は存在しなかった。投手としての能力は、ほぼ完ぺきに近い」と絶賛している。
筆者が見た“高校生ダルビッシュ”の衝撃
筆者は、2003年夏の甲子園大会で東北高校のダルビッシュを見ている。3回戦の平安(京都)戦で、一塁側ベンチの真上の観客席、つまり投手をほぼ真横から見る位置にいたが、初回にダルビッシュがマウンドに上がったとき、まず196センチというその背の高さに驚いた。
そして、軽めに投げていた投球練習時とはまるで違う、力の入った初球――。地面に叩きつけるように投げられたボールが浮き上がるようにしてキャッチャーミットに収まったのを見て、度肝を抜かれたものだ。
そこで思い出したのが江川卓である。再度私事で恐縮だが、大学時代、野球部だった筆者は、法政のエースだった江川と神宮球場で対戦経験がある。183センチと当時としては長身だった江川を打席から見ると、実際の距離より前にいるように感じて威圧感を受けたものだ。
そんな江川より遥かに大きい196センチのピッチャーが、オーバーハンドから150キロ近いストレートを投げ下ろしてきたら……。高校生にはとても打てないだろうと感嘆したのをよく覚えている。