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鹿島の10番・本山雅志が、いま明かすJリーグ連覇中の”体の異変” 手術は8時間におよび「腎臓を4分の1残すことに成功したが…」
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byJ.LEAGUE
posted2023/08/27 11:05
鹿島アントラーズで18年にわたりプレーした本山雅志。2008年は腎臓の病気を抱えながらもリーグ戦32試合に出場し鹿島の連覇に貢献した
「2002年にナビスコ(現YBCルヴァンカップ)を獲ってからタイトルがなくて、一緒にやってきた選手も次々に抜けていくなかで、負のスパイラルじゃないけど断ち切りたいと思ってシーズンに臨んだことを覚えています。開幕から5試合勝てなくて、毎年腐らずに我慢してやってきたからそれも活きたんだと思います。(オズワルド・)オリヴェイラさんが監督になって、戦術、モチベーション、コンディション維持すべてハマった感じもありました」
自分のプレースタイルもマイナーチェンジした。攻撃の特長ばかりでなく、献身的な守備や周りを助けるプレーが目立つようになる。自動的にドリブラーの色が薄くなっていった。
「ボランチが出ていったらカバーするのが2列目の役割だし、勝つためのプレーをしっかりやっていったつもり。年下の選手ばかりになってきたというのもあります。昔から好きなことというか、ドリブルばっかりやってきたわけじゃないですけど(笑)。でも段々と違う形になっていったのは事実ですね」
やっとの思いでつかんだアントラーズ復活の兆し。
だが本山の体に異変が起こっていた。翌2008年シーズン、リーグ戦、ACLとフルに働いていくなかで腰付近に痛みを覚えるようになる。高2からずっと抱えている椎間板ヘルニアの影響かと思いきやそうではなかった。
「6月のことでした。病院で検査してもらったら、右の腎臓がほとんど機能していないと言われたんです。すぐ手術したほうがいいとも」
診断名は先天性水腎症。
血管が尿管を圧迫することで右腎臓の機能が著しく低下していたという。尿路が妨害されるため、水分を入れると腎臓が膨張してしまう。それが痛みのもとになっていた。腎臓が膨張した状態で相手と激しいコンタクトがあると破裂する怖れもあると説明を受けた。
即手術に踏み切っておかしくないのに、担当医にはシーズンが終わるまで手術を待ってもらうことにした。この事実を知っているのはクラブのフロント、監督、スタッフ、そして小笠原らごく数人だけ。格段隠すつもりはなかったが、変に心配されても嫌だなと考えていたからだ。
「日ごろから摂生に努めてはいましたよ。腎臓を膨らませないようにって。練習中も、試合中もなるべく水を飲まないようにしました。まったく飲まないわけにはいかないんで、ちょこちょこという感じで。でもやっぱり筋肉に影響出ちゃうんですよね。後半に足がつったりして、早めの交代もよくありましたから」
8時間にも及んだ手術
大変なことを、大変そうに言わない人。こんな感じだから、チームメイトや周囲にも気づかせなかった。前半から飛ばして守備も全力でやるから、お役御免とばかりにピッチを去っていくと見られていた。本山は体力がない。そんな見方もなかったわけではなかった。