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「アイツ、霊感が強いらしい」ルーキー伊良部秀輝と同部屋に…ロッテ名捕手が明かす“異端児たち”の本当の顔「なぜ村田兆治と一緒に引退したか」
posted2023/08/05 11:00
text by
岡野誠Makoto Okano
photograph by
Tabun Matsuzono
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落合博満が去ったロッテオリオンズは1980年代後半、急激に弱体化していく。その中で一筋の光も見えた。
「豪腕」伊良部秀輝の登場
87年秋のドラフト1位で尽誠学園から入団した伊良部秀輝は1年目から14試合に登板し、2勝を挙げた。剛腕の飛躍を期待する首脳陣は、静岡・掛川の秋季キャンプで33歳のベテラン捕手・袴田英利と同部屋にした。
「アイツ、霊感が強いらしいんですよ。夜、伊良部が部屋でコップに水を汲んでいた。飲むのかなと思ったら、窓際に置いて戻ってきた。『(霊が)会いに来るので水を用意しときます』と。『ホントか?』と聞きましたけど、笑みを浮かべるだけでした。つま恋(掛川市にある当時ロッテキャンプ地)ではその5年前にガス爆発事故で何人も亡くなっていたんですよね」
入団当初の伊良部は安定感に欠けたが、スイッチが入ると手を付けられなかった。90年4月19日の西武戦、8回途中からリリーフした伊良部は最終回、先頭の辻発彦に四球、平野謙にはレフト前に運ばれ、秋山幸二にも四球で無死満塁に。4番の清原和博を迎えると、袴田は伊良部の醸し出す雰囲気を察知した。
「ストレート勝負を望んでいるなと感じ、真っ直ぐのサインを出しました。そしたら、レフト上段に満塁弾ですよ。でも、清原に打たれて伊良部が急に変わった。つづくデストラーデ、石毛(宏典)、バークレオを3者連続三振に仕留めました」
「伝説の対決」伊良部vs清原
落ちる球を投げれば、清原を打ち取れる確率は高かったはずだ。なぜ、伊良部は見え見えのストレートを放ったのか。
「清原から真っ直ぐで空振りを取れれば、自信になる。ストレート勝負で、その時の自分のレベルを測っていたのかもしれない。持っている力を全て出し切って、真っ向勝負を挑みたくなるバッターだったのでしょう。逆に言えば、自信がないと放れないし、周りがエース級と認めないと投げさせない。それほどの力があったから、特別な空間が許された」