プロ野球PRESSBACK NUMBER
「アイツ、霊感が強いらしい」ルーキー伊良部秀輝と同部屋に…ロッテ名捕手が明かす“異端児たち”の本当の顔「なぜ村田兆治と一緒に引退したか」
text by
岡野誠Makoto Okano
photograph byTabun Matsuzono
posted2023/08/05 11:00
ロッテ、西武でコーチ経験がある袴田英利
村田兆治「伝説の引退試合」
10月13日、雨の降りしきる川崎球場で4ヶ月ぶりに黄金バッテリーが復活した。相手は巨人との日本シリーズを控える西武だった。森祇晶監督はベストオーダーを組み、村田も真っ向勝負を挑んだ。
「いつもと変わらず、良いボールを放ってましたよ。まだまだ現役でやれたと思いますけどね。先発完投できなければ辞めるという美学があったのかな」
引退試合特有の馴れ合いはなかった。1回表、辻のセンター前ヒットをきっかけに1死二塁のピンチを迎えるも、3番・秋山を高めのストレートで空振り三振、4番・清原をレフトフライに打ち取った。2回表には、二冠王の5番・デストラーデから144キロの速球で空振り三振を奪った。
袴田はいつもと変わらずノーサインで受けた。ベンチに帰ると、気持ちが揺れ始めた。
「ゲームが進むにつれて、『潮時かな』と徐々に思い始めました。一方で、『まだ(この先)何かあるかな』という欲もあった。気持ちは揺れていました」
「村田さんと一緒に幕を下ろすのもいいかな」
愛甲猛のタイムリーなどで4対0とリードした5回表、村田が1死一、三塁のピンチを併殺打で切り抜けると、雨足が強くなった。責任審判がコールドゲームを告げ、不惑の男は引退試合で完封勝利を飾った。それは、2年ぶりのシーズン10勝目だった。
「人生の喜びも悲しみもすべて、このマウンドの上にありました」という村田の引退スピーチが終わると、袴田はスタンドにキャッチャーミットを投げ入れていた。それを目にした村田は抱えていた花束の1つを盟友に差し出した。言葉を交わさなくても、雰囲気で引退を感じ取った。
「最後、村田さんと一緒に幕を下ろすのもいいかなって。ずっと村田さんのボールを受けてきて、良い思い出もたくさんできた。気付いたら、今日限りで辞めると決めていました」
思い出した“アザだらけの練習”
現役時代、袴田は毎日のように至近距離からワンバウンドを止める練習をしていた。裏方には試合と同じように予告なしで真っ直ぐと落ちる球を交ぜてもらい、バウンドも四方八方に投げ分けるようにお願いした。イレギュラーしたボールが何度も当たり、身体には青アザが絶えなかった。
「僕はフォークを何度も後逸した。その1球が決勝点になって負けた試合もあった。でも、村田さんは全然怒らない。日々の練習を知っていたみたいです。周りをよく見てるんですよ」
ノーサインという事実を知らず、勝手に評価を下すファンもいた。閑古鳥の鳴く川崎球場で、売り子のマネをしながら「袴田のパスボールはいかがですか~」と野次る声が響き渡った。