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落合博満“まるでマンガ”の天才エピソード「ベンチで宣言した通りにホームラン打つ」元同僚が語る落合と村田兆治“なぜ2人は理解し合えたか”
text by
岡野誠Makoto Okano
photograph byKYODO
posted2023/08/04 11:04
ロッテ時代に三冠王を3度獲得した落合博満
「村田さんは『いや、大丈夫です。最後まで行かせてください』と拒んだんですよ。稲尾さんが『ジョーブ博士との約束があるだろ』と交代を促しても、『大丈夫です』と引きませんでした。『また壊れたらどうするんだ』と心配されても、『本望です』とマウンドを降りようとしなかった」
2点差に迫られ、なおも二死満塁と一打同点のピンチを迎えた。広岡達朗監督は代打の切り札・大田卓司を送った。村田は決め球にカーブを選択した。
「手術明けなので、真っ直ぐは以前と比べれば、力がなかった。だから、この日は変化球主体でした」
大田をレフトフライに打ち取ってピンチを脱すると8回裏、落合が左腕の永射保からダメ押しの2ランを放つ。普段、感情を表に出さない寡黙な天才は一塁ベースを回る直前、珍しく右手に力を込めてガッツポーズをした。公約通りの2発目だった。
村田は9回、スティーブをセカンドゴロに打ち取って完投勝ち。袴田は満面の笑みを浮かべ、155球を投げ切った村田のもとに一目散に向かった。
「僕の野球人生の中で一番思い出に残る試合です。村田さんは手術明けから1人で尋常じゃないくらい練習していたし、試合前には痛み止めの薬を何種類も飲んでいた。本当に嬉しかったですね」
「狙ってくるよ、で本当に打ってました」
主に日曜に先発した村田は“サンデー兆治”と呼ばれ、17勝5敗でカムバック賞を受賞。エースの登板日になると、落合は打ちまくった。24試合で85打数36安打、打率4割2分4厘、13本塁打、31打点と驚異的な数字を残した。
「落合さんは村田さんの時に限らず、よくベンチで『狙ってくるよ』と宣言して、本当にホームランを打っていました。しかも、エース級のピッチャーの決め球を仕留める。山田(久志)さんならシンカー、東尾(修)さんならスライダーです。普通は自信があっても言えないですよ。有言実行で本当に凄い人だなと思いました。当時のパ・リーグには大打者がたくさんいましたけど、僕の中では落合さんがナンバーワンですね」
落合は翌年9月2日、親交の深い五木ひろしが訪れた試合でも予告ホームランを放った。これほど頼もしい4番はいなかった。そんな男が2年連続三冠王を獲得したオフにトレードされるとは夢にも思わなかった。新監督・有藤道世との確執説の真相とは――。
〈つづく〉
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