「そのときはイケイケでした。もうひとつ勝って明治と優勝争いだと、意気込んでいましたよ」（大久保）

　勢いそのままに東大は立教との1回戦を10対5で制する。4点ビハインドから逆転し、実に23年ぶりとなる2桁得点をあげたのだ。当時の立教のエースは、後に西武ライオンズにドラフト1位指名される3年生サウスポーの野口裕美。野口は2年生のときに当時の春リーグにおける奪三振記録を塗り替えるなど「セントポールの星」と呼ばれた好投手だった。

　そんな野口を1回戦で東大はノックアウト。早々に勝利をあげ、優勝に一歩進んだ。そして臨んだ2回戦。2回表、立教のエラーなどが絡み、ランナーが三塁まで進む。チャンスで打席が回ってきたのは7番バッターの篠原である。

「次のボールでスクイズ、というサインが出ていましたが、その前にバットを振ってしまったんです。そうしたら、本当にどん詰まりの打球がライト前に落ちて、タイムリーとなりました。野口はしゃがみ込んで悔しがっていましたね。これで東大が1点リードし、このまま我々のペースでいけるぞと思いました。ただ、結果的にここが東大が最も優勝に近づいた瞬間でした」

　その後、東大は立教の5番打者・千葉進に逆転の3ランホームランを浴びてしまう。篠原が「鬼気迫る力投」と評す野口に手が出ないまま、東大は敗戦した。

　1勝1敗で迎えた3回戦、東大は異例の休校措置を出した。学生も職員も総出で野球部を応援すべしということで、神宮の観客は2万人に及んだという。さらに、TBSが試合中継に乗り出し、フィーバーは最高潮に達した。

　しかし、この日は大山、野口の両エースが一歩も譲らず、延長12回、0対0の引き分けに終わる。前日の2回表に得点して以降、東大は19イニング連続で無得点ということになる。

東大にとって「天下分け目の戦い」になった立教大戦。1勝1敗で迎えた3回戦は延長12回、0対0の引き分けに終わる（読売新聞1981年5月12日）

東大が1敗に泣いた日「お通夜のよう」

「あのときはそれまでと比べ物にならないくらい観客が入っていました。何万人も入ると、観客の声は当該プレイヤーに一気に向くんですよ。打ったとき、エラーしたときなどの一挙手一投足ごとに、一斉に『ワー！』っと声が当事者にいく。選手を圧倒するような力を持っています。好プレーをしたときのうれしさは倍増しますが、エラーしたときの『やっちゃった』感も倍になる。観客が多い試合と少ない試合とでは、疲労感がまったく違うんです」（篠原）

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