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「1次リーグ突破も危うい」の6年前…沈黙の“WBC直前ミーティング”で青木宣親が立ち上がって…いま明かされる「試合までのリアル」
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph byJIJI PRESS
posted2023/03/08 17:00
大一番のWBC「初戦」。その裏側にはどんなドラマがあるのだろうか。前回大会メンバーが明かす
「あれは菊池だからできたプレーでした。と同時に、珍しく乱れた坂本の送球を処理した中田の守備も素晴らしかった。あそこでバタバタして1点入っていたら一気呵成で流れを持って行かれたかも知れない。となればその後の展開も明らかに変わっていた。あの守備は、初戦の大きなターニングポイントだと思います」
中田の激走に「分析の結果が出た」
志田が明かすもう一つの分岐点は、2−1と1点リードで迎えた5回の攻撃だ。1死から5番の中田がフォアボールで出塁。続く坂本の打席の2球目に、体重100kgの中田が迷いなくスタートを切って激走し、セカンドベースを陥れたのだ。投手は二番手の左腕、ヨアンニ・イエラ。123kmのスライダーを投じた瞬間の盗塁成功だった。
「イエラは牽制は投げるんですがトリッキーさはなく、クイックが苦手でした。足を大きく上げるフォームなので、ミーティングの段階から“絶対に走れる”と選手に伝えていました。普段は中田があの場面で盗塁を企画することはまずありませんが、あの時は分析の結果が出たと手応えを感じたのを覚えています」
スタートを切った中田、サインを出した一塁コーチャーの仁志敏久、そして大会の遥か以前から視察を重ね分析を続けてきたスコアラーやアナリスト。全ての力が集結した中田の盗塁というワンプレーだった。
ありえた「逆の展開」…初戦の怖さ
結果的に坂本は続く3球目にレフトへタイムリー二塁打を放ち、中田がホームイン。さらに松田が1回のエラーを帳消しにするホームランを放って、この回に打者11人の猛攻で5点を奪った。
終わってみればスコアは11ー6の快勝。それでも、1回の守備、5回の攻撃という二つの分岐点でのワンプレーが失敗していたら、流れはキューバに傾いていてもおかしくなかった。黒星OKだったはずのキューバが勝機を見出し、中盤から強力なリリーフ陣を投入していたら……結果は全く逆の目に出ていた可能性もある。国際試合はこんな風に、ワンプレーが大きな意味を持つのだ。
「正直、こんなにプレッシャーがかかるとは思わなかった。点差が開いても最後までキューバは脅威に感じました」
試合後、小久保監督は安堵の息をついてそう話している。たかが1試合、されど大きな1試合。未知なる相手とのWBCの初陣は、かくも大きな重圧との戦いである。
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